Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

野球のサイン伝達はフェアではない

フェアとアンフェア

2019年7月10日の朝日新聞夕刊の、「スポーツマンシップ考3」の連載記事で、野球のサイン伝達は、米国ではNGであり驚いたという記事がありました。

1996年の全国日本高校選抜チームがアメリカで試合をしたとき、二塁走者が打者に捕手のサインを伝えたことに対して、審判が注意したという記事です。

 

チームの監督が指示していたわけではないようであり、選手同士が相談してやっていたようです。当時の日本チームの監督も何の違和感もなかったと言っており、捕手のサインや動きから球種やコースを打者に教えるのは日本では普通にやっていたこととあります。

 

しかし、米国では、捕手のサインと盗み見て打者に伝えることは、投手と打者の対決を、カンニングに似た行為で打者に有利にしてしまうもので、アンフェアとなるとあります。

 

当時の高野連の事務局長は、簑島高校の尾藤元監督らの意見を聞いて、シンプルに正々堂々と勝負するように指導を変更したようです。

 

そして、1998年から走者やベースコーチから打者に伝達する行為は、禁止された(しかし、撲滅はされていない)とあります。

 

コメント

フェアという言葉に、反応してしまいました。不正競争防止法は、一般には、Unfair Competition Law(不正競争法)です。

何が不正競争になるのか、すなわち、競合者の取引で、何か公正(fair)で、何が不公正(unfair)かが、重要になります。

 

この記事は、当時の日本のフェアの常識と、米国のフェアの常識が、まったく違っていたことを示します。

結論は、日本のフェアの常識を、アメリカの常識に合わせたことになります。

 

この野球の話については、意識としては、日本はチームで戦っているのに対し、アメリカは打者が個人で戦っているという、その認識の違いがあるように思いました。

アメリカの考え方は鎌倉時代の武士の「やーやー我こそは」に近いものがあり、日本の考え方は戦国時代の織田信長の戦いに近いのかなと思いました。

米国は、個人と組織で対比すると、個人を中心に考えるんだろうなと思いました。

 

日本の不正競争防止法も、小出しに不正競争行為の類型が増え、その多くは、商品やサービスの出所混同とは関係なさそうなものに変化してきています。

営業機密が入ったあたりから、どんどん増えています。ちょっと細かすぎて、ついていけないので、一般条項が欲しいような気がしますが、フェアとアンフェアの基準は、冒頭の話がそうなのですが、国によって、時代によっても大きく違うので、一般条項があっても、意味がないかもしれません。

 

反対に一般条項があると、裁判所の恣意的な運用になってしまい、色んな判決がでて、収拾がつかなくなるのかもしれません。

一般条項のあるドイツの不正競争防止法は、日本の独禁法の領域まで含むようですが、その判例は非常に複雑で、予測可能性が低いと聞いたことがあります。

 

今のように、経済産業省が法律として、その時代、その時代の、不正競争行為を類型化するのが、一番、良いのかもしれません。

 

不競法は、民法とならんで、特別法である商標法の一般法になるのですが、この不競法の発展が、商標法にどう影しているのかは、ちゃんと分析しないいけないテーマだと思います。

商標法は大体ですが、出所混同防止という一つのロジックで来ましたが、アメリカのダイリューションや、欧州の名声の保護が入ったあたりから、出所混同防止では収まりきらなくなっています。

フェア、アンフェアの概念が、一般法の基本概念で、それは商標の実際の使用や、情報の保護管理していることを前提にしているとすると、商標登録にどのような意味があるのか?という気はします。

すでに、商標登録制度を、Google検索が補完しており、長期の流れとしては、おそらく商号登記のように、少くとも相対審査は、無審査になる運命です。

欧州はそうですし、アメリカも実際はズバリや著名以外は案外類否はパスします。

 

欧州型にするか、アメリカ型にするか、どちらにしても、使用の条件はどこかに入れ込まないと一般法との齟齬が広がり過ぎるように思います。