Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

不使用取消審判での商標的使用の必要性

今年の弁理士試験の問題

今年の弁理士試験の論文式試験で、不使用取消審判においては、商標が商標的使用されているかどうかを判断するべきかどうか?という論点が、出題されています。

https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/shiken-mondai/document/2019ronbun-hissu/shiken_shouhyou.pdf

 

令和元年 商標法

【問題Ⅰ】
商標法第50 条(不使用取消審判)の規定に関し、以下の設問に答えよ。
ただし、解答に際してはマドリッド協定の議定書に基づく特例は、考慮しなくてよい。
(1) 登録商標と使用商標の同一性について説明せよ。
(2) 登録商標の使用の立証において、いわゆる「商標的使用」(自他商品・役務識別機能を発揮する態様での使用)を必要とする立場と「商標的使用」を必要としない立場とがあ
る。商標法第50 条の趣旨に照らして、以下の①~③に答えよ。
① 「商標的使用」を必要とする立場について説明せよ。
② 「商標的使用」を必要としない立場について説明せよ。
③ いずれの立場が妥当と考えるか論ぜよ。

 

コメント

●最近は、こんな問題がでるのかと思いました。こんな問題に対応しようとすると、青本だけでは不十分だと思います。

たしかに、パテント誌には、関係する論文がありますが、これを読んで、論点を整理しておくというのは大変です。

決定版の基本書というのがない状態で、このような議論のあるところも問われるというのは、受験生も大変だなと思いました。

 

ただ、ロジックさえしっかりしていれば、何も、論文や教科書通りのまとめ方でなくても、良いだろうと思います。

別に答えがあるわけではないのですが、つらつら考えてみました。

 

●商標は、自他商品識別機能を持っているものであり、自他商品の識別に役立たない商標の使用は、仮に登録商標(標章)を、指定商品に表示していても、実質的な意味での商標の使用があるとはいえず、よって、商標を取消すということが昔は多ったのだと思います。商標制度の趣旨を踏まえて、商標の使用をピュアに考えている考え方です。

 

●一方、タケダのウロコマークを使った、販促品の折り紙の事件などで、指定商品に標章を表示しているのに、不使用取消になるのでは、権利者の保護に欠けるという考え方が出てきて、一応、形式的に使っていたら、取消さないでおきましょう。取消されると、権利者も困るでしょうからとなったのだと思います。

 

タケダの折り紙以前は、そもそも、無償の販促品は、権利が不要という解釈で、権利取得不要と考えていました。当時は、このような理解で、安定していたように思います。

 

その後、広告収入で運営するような、無償の商品が増え、有償・無償が唯一のメルクマークでなくなり、無償の商品・役務でも権利取得しないと危ないということで、企業は商標出願をはじめています。

 

●現在の不使用取消審判では、権利維持のためには、商標的使用までは不要であり、形式的使用があれば、不使用取消にはならないとする説が主流のようです。

侵害訴訟では商標的使用の議論は必要(26条)であるが、不使用取消では形式的に一応の使用が確認されれば、それで権利維持して良いという考えです。侵害訴訟と不使用取消を区分する考え方です。

特許庁が行う権利取得と権利維持はできるだけ形式的に画一的に、裁判所が行う権利行使時だけは実質的に商標的使用の概念で権利濫用と防ぐという感じです。

 

 

(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
・・
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標

 

 

条文上は、商標的使用という言葉そのものではありません。

 

●主流派の理屈も分からなくはないですが、同じ商標や使用という概念を使って、場合、場合で、分かるのが、本当に良いのか?という気はします。

 

他人の権利と抵触すると、当該商標は使えないのですが、商標は選択物なので、そのときは、別の商標を選択しなさい、あるいは、不使用取消をしないさいとなります。

不使用取消で、取消しするのを躊躇すると、よくないように思います。

 

更新時の使用証拠の提出が商標法条約のために無くなってしまい、ドイツや中国のように、侵害時に使用を要求することもない日本法の下では、不使用取消審判は、商標制度に使用を条件づける最後の砦のようなものです。

不使用取消審判においても、厳しく、商標の使用を条件とする方が、商標制度趣旨に合致するような気がします。

 

さらに、日本には、(無効や取消)審判で、普通名称化・一般名称化した商標の無効・取消の仕組みがありません。その部分を、不使用取消制度で、対応してきた面があります。立法論として、欧州などにある、普通名称化・一般名称化した商標の登録を、無効・取消にする制度の採用は手段としてはありますが、それができるまでは、不使用取消で、厳しめに取消す方向で運用すべきではないかと思います。

 

●話が全く違う話をしますが、この商標的使用という概念自体、本当に、必要なのか?という気がしています。最近は、色んなところで活用されているので、今一度、整理が必要になってきていると思います。

 

実務で、単なる図柄としての使用だから、書籍やコンテンツの題号だから、キャッチフレーズだから、商標的使用でないというような言葉を聞くことがあります。言わんとするのは、自他商品の識別を目的としないので、侵害にならない、よって、商標調査も不要で、他人の権利調査も不要であるというような話です。

 

また、Webサイトや、カタログに、ブランドの近傍にブランドスローガンがあるけれでも、それは、コーポレートブランドのスローガン、すなわち、コーポレートのスローガンであり、商品・サービスについての使用ではないので、よって、商標的使用ではなく、抵触する商標があっても、侵害にならないというような説明を聞いたこともあります。

 

●侵害追及されたときの、抗弁としての商標的使用の概念が、自らの使用を正当化するために、拡大して解釈しているような気がします。巨峰事件、POS事件を離れて、商標的使用の概念が独り歩きしているようです。

侵害判断時ほどの、徹底した議論、判断をすることなく、安易に、商標的使用でないので、使っても大丈夫というのは、少し怖いなと思います。

そもそも、識別性のない商標からの権利侵害追及に抗弁する手段として編み出された、商標的使用の概念ですが、ベクトルの向きを変えて理解すると、安易な運用を誘発しそうです。

 

●あいまいな「商標的使用」という概念はやめてしまい、「商標」の「使用」に戻るか、機能侵害に進むかした方が、良いように思いますが、どうでしょうか。

弁理士試験の論文試験ですが、難しい問題を聞くんだなと思いました。