Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国商標出願の研修会

2時間でコンパクトに

2019年11月8日の夕刻、弁理士会館で行われた「中国商標出願の実務~出願の検討事項から審判まで~」というタイトルの研修会に出ました。

北京尚誠知識産権代理有限公司の中国弁護士の王丹丹先生と日本弁理士の伊藤貴子先生の話です。

尚诚知识产权代理有限公司

この事務所、旧北京紀凱知識産権代理有限公司とあります。こちらの方が、私にはなじみがある名称です。

 

伊藤先生は、ユアサハラに勤務後、7年間同事務所の上海オフィスで勤務し、現在は東京駐在ということでした。王先生は日本語の大学を出て、法科大学院に進んだということです。非常に上手な日本語で話をされていました。

 

出願から審判までですが、バランスのとれた講義だったと思います。実務能力に長けた事務所という印象です。

再審査請求などの中国独特の言葉を使わず、審判請求というなど、最近の中国の代理人共通の傾向だと思いました。

 

個人的に面白いなと思った内容だけピックアップすると、

  1. 中国の2019年の出願件数の予想は760万件と急ブレーキ。理由は、商標局が「量より質」に転換しているため。第4次改正を受け、使用を目的としない悪意の出願を排除し、大企業にはストック商標を止めるように呼び掛け
  2. 先行商標調査には、通常は商標局のデータベースを使っている
  3. 中国商標の類似判断は、観念>外観>称呼の順番で重視される(※非常に良く分かりました。外観重視ではなく、観念のようです。この考え方、日本でも漢字商標などでは、入って来ていると思います)
  4. 相対的拒絶理由(引用拒絶)が出たときに、間接的な反論になるが、「出願商標は長期の使用により、既に高い知名度を獲得し、関連公衆群を形成している。」という反論をすることがある(※これは「誠実な同時使用」で、英法系ではあるのは分かるのですが、中国もこの反論が有効なようです。台湾もです。日本でも事実上は意見書は審判請求書に入り込んでいますが、本当はこれを認めるなら、登録主義は吹っ飛びます。登録主義は、この情がない制度ですが、それをカバーできます)
  5. ただし、最高人民法院の(2016)最高法行申362号判決では、拒絶査定不服審判では引用商標の権利者が参加できないため、出願人のみが、出願商標の知名度が高く、引用商標の知名度が低いことを証明できるとすれば両者の公平を欠くとして、出願人の提出した証拠だけでは、出願商標が引用商標と区別可能と商標するには不十分、という反対方向の判例があり、最近の審決取消訴訟では、出願人の提出した知名度の証拠を考慮しないケースがあるとします
  6. 中国の不使用取消は、審査官が行いますので、不使用取消請求(ちなみに、無効は、審判なので、無効審判)となります。不使用取消は、当事者対立でないので、不使用取消請求に負けたときに、その不服審判をして、はじめて使用証拠を見ることができます

  7. 譲渡交渉では、日本企業が直接交渉せず、別の中国企業へ譲渡してもらってから、日本企業に再譲渡するのが、一般的
  8. 拒絶を受けたとき、再出願が重要で、中間における第三者との関係で、再出願のタイミングとしては、拒絶査定不服審判請求や引用商標に対する不使用取消・無効審判請求と同時に再出願をする
  9. 審決取消訴訟の審決取消率は、2018年で一審は26.7%。二審は37.4%

このようなところです。

 

コメント 

体系的、実際的だなという感じがしました。

 

また、冒頭でも言いましたが、日本の用語に近い用語を使うことで、日本の出願人の理解が高まります。

中国語は漢字なので「再審査請求」と漢字があると読めるので、そのまま使いますが、日本の出願人には、「拒絶査定不服審判請求」とした方が理解しやすいところです。

日常、中国とのコレポンは、英語が多かったので分からなかったのですが、どうも日本語のできる中国代理人は、案外、このようにしているようです。こちらの方が、顧客ファーストと思います。

 

これだけ日本語ができるとなると、大手の日本企業は直接、海外事務所とコンタクトを取ります。

 

脱線しますが、果たして、日本の代理人は、どのようなプラスαが出せるのだろうかと思いました。おそらくハブ機能(ワンストップサービス)や、情報システムや入力サービスの提供でしょう。

通常の特許事務所では、ハブはできるのですが、情報システムの提供は簡単にはできません。ここが、特許事務所再生の鍵だろうと思います。これこそ、弁理士会が本気でやるべき事業だと思いますが。。。