Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

EUIPOのセミナー(その1)

EUIPOのツール

2019年12月16日、商工会館弁理士会館)で行われた、EUIPOのセミナーに出席しました。講師は、EUIPOのMr.Jose Izquierdoさんです。EUIPOの国際協力・法務関係部門の副部長ということです。

大きく、4つぐらいのTOPICがありました。

  1. TM Class、TM View、Design Class、Design ViewといったEUIPOのツールの説明
  2. 異議申立と使用証拠
  3. 取消審判と無効審判
  4. 質疑応答で出たBREXITの話

逐次通訳が入っているため、13:00-17:30という長時間の講義でした。

 

まず、ツールの説明です。

これらのツールは、無償であるということを何回も云っていました。

 

TM Classは、出願時などに有用なもので、欧州だけではなく、日本や中国アメリカも参加しており、合計76ヵ国・地域の情報が入っているようです。

NICE協定、マドリッド、TM5、各国特許庁のデータが入っていて、指定商品・役務の用語が各国官庁で受け入れられるかどうかを事前にチェックできるというものです。

 

TM Viewは、71地域の5,300万件の商標情報が入っているデータベースで調査ができるというものです。中国が入っていないのですが、データベースを整備中ということであり、2020年末には入る可能性があるとの情報でした。

アラート機能があって、ステータスに動きがあれば、アラートをすることも可能なようです。

 

通常は、市場前の調査に使うものですが、第三者が関連ある商標を出願していることをアラートする機能があるそうです。これに、ファジーサーチを組み合わせると、71ヵ国分のWatching Reportが出来るようです。

たいていの会社は、ハウスマークは有償のWatchingサービスをやっていますが、ネーミング・ペットネームは、ほったらかしがほとんどだと思います。

特に、欧州のように、相対的拒絶理由(同一、類似)は当事者の異議待ち審査という国では、Watchingをしているかどうかは致命的ですので、重要です。

 

10月からTM Viewのβ版が出ているそうです。AIを使ったり、イメージサーチができるとのことでした。

こちらは2020年春に本格運用するようです。

 

Design Classは欧州中心です。日本もアメリカも中国も韓国も入っていません。意匠に係る物品の記載が違うためでしょうか。

一方、Design Viewは、69ヵ国・地域の1,400万件の意匠が入っていて、調査ツールとして使えるようです。

 

ツールの最後に、プラクティスの共通化(移行)の話がありました。EUの各官庁の判断を共通化する取り組みで、12のプロジェクトが進んでいるそうです。

例えば、図形的要素のある商標の識別性の判断、白黒で表現れた登録の取り扱い、相対的拒絶理由の類似の考え方、などを調整しているそうです。

この考え方をまとめたものは、EUを超えて、例えばヨルダンでも採用されているという話がありました。

 

商標調査のとき、同一商標のズバリチェックなら、SAEGISも良いのですが、 TM ViewやGlobal Brand Databaseでもだいぶできるなという感じがします。

しかし、類似の判断になると、同じEU内でも、国によって、また、代理人によって、引用商標に対する評価が全く違い、同じ商標が検出されているのに、ある国の代理人はOKと言って、別の国の代理人はNGと言います。

このような状態では、TM Viewで日本の弁理士が海外の調査を判断するのは、無理だと思います。やはり、現地の弁護士・弁理士の意見を聞かないと、最終的な判断は出せません。

 

しかし、今回、TM Viewの話を聞いて、異議の対象を発見するためのアラート機能や、判断の基準自体を共通化する動きを見ていると、共通化が困難な類似の判断も、いつかは世界共通になる日が来るのかなと、少し思い始めました。

ミャンマーも、異議待ち審査ですし、審査官の審査前に事前に公告をする中南米の国も同じようなものがあり、日本とは全く違い、海外では異議はますます重要になっているので、このアラート、使えるようになりたいと思います。