Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

EUIPOのセミナー(その2)

異議申立

昨日の続きです。

まずは、統計の話で、EUTMの出願は、年間15万件(分類を累積的に計算)ぐらいで、そのうち18000件程度の異議があるようです。14%~16%は異議を受けるということで、この数字、非常に多いなと思います。

 

当事者主義であり、職権主義はありません。

使用できる言語は、ドイツ語、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語です。

 

異議申立は2ヶ月間可能で、方式審査のあと、2ヶ月間のCooling Off期間があります。ほとんどのケースは、Cooling Offの期間に合意が成立するとのことです。EUIPOは関与しません。

 

出願人からも、異議申立人はからも、使用証拠の提出が基本的な攻撃防御の方法です。(使用証拠の提出は、出願人にとっては防衛のために、異議申立人にとっては攻撃のために使われます)。

 

異議申立の理由は、EUTMRの8条(1)(3)(4)(5)(6)にあり、相対的拒絶理由といわれるものです。

 

(1)は、Double identityとLikelihood of consusion(LoC)で、後者は、どこか一ヵ国で混同を生じるだけで十分です。ダブルアイデンティティのときは、混同の事実が不要です。混同は5つのファクターを総合的に判断するようです。日本の、机上の議論の類似とは違い、アメリカの異議レベルに大変そうです。

  • Identity/similarity of goods/services (Canon基準)
  • Relevant public(General publicとProfessional public)
  • Similarity/identity of the signs
  • Distinctiveness of the earlier mark
  • Other factors(Market、Coexistence、Interdependence、Prior cases)

(5)は、Mark with reputationで、商品・サービスが非類似のときにも適用可能です。

この主張は、EUTMかEUの国で、どこかの分類に、登録があることが必要ということです。

この主張では、Market surveysが一番の証拠になるとのことです。

権利侵害の3つの態様としては、Free riding、Dilution、Tarnishment(イメージを損なう)ということでした。

 

不使用の正当理由の有無も論点ですが、あまり認められないようです。

 

質問で、8条(5)の著名商標の保護は、類似の場合(1)でも、重複的に適用可能か?という質問があり、可能という答えでした。

一方、海外でのみ有名でも適用できるのか?という質問には、EUのどこかの国で有名でないといけないということです。

 

コメント

面白いのは、Double identity(商標同一、商品同一)のときは、混同が不要というところです。総体的拒絶理由は無審査なので、この初歩的なDouble identityも、異議申立人がチェックしないといけないというのは、ブランドを守る立場からは苦しいなと思います。ここぐらいは、特許庁にさばいて欲しい感じです。商標の類似は、混同の有無を判断する際の理由の一つに過ぎません。どちらかというと、商品の類似がより重要な問題と感じました。

 

混同の判断ですが、日本では裁判で判断するレベルのやり方だなということです。混同を生じていないが、類似で画一的に判断という日本のような方法は、英国流の審査主義の流れですが、審査主義の権化の英国がEUTMに入り、英国法も無審査になり、それで商標が回っているということは、日本も無審査で回る証拠です。

Brexitになっても、英国は無審査から審査主義に復帰しないと聞いたことがあるのですが、10年後、果たしてどうなるのかなという気がします。

10年たっても、現在の英国法のままであれば、これは無審査主義の勝利であるように思います。

 

出願時の先願主義と先使用主義の争いは、先願主義が勝利しましたが、審査についての審査主義と無審査主義では、EUTM流の無審査主義が旧英国流の審査主義に勝利する可能性が高く、今後の英国法がどうなるのか、楽しみです。