パテント誌の2020年2月号の乾利之弁理士の、標記タイトルの論考を読みました。
特許調査というとパテントマップに代表されるような特許力の分析を意味します。一方、商標調査というと当該商標が使用できるかどうかというものになります。
この論考で言っているのは、商標分析といって良いものであり、誰も手を付けていない未開拓の分野です。一つのブルーオーシャンです。
商標でも、特許のようなことができないものかと、かねがね思っていたいのですが、そのような視点の論考です。筆者はメーカー出身の特許の弁理士で、知財学会のメンバーのようです。商標専門弁理士には思いつかない、良いテーマだなと思いました。
商標の場合、特許以上に使用率も高く、事業の方針がストレートに権利になっているようです。ただし、商標公報の情報は特許に比べると少なく、特許情報と組み合わせたり、売上や宣伝広告費で補填する必要があるようです。
最近は出願公開された、商標をウォッチしてニュースにするような商標ウォッチャーもいますが、ここでも同じように、新商品予測や競業企業の事業分析に言及があります。
特に指定商品・役務が、積極表示されているような場合には、事業内容が明確になるようです。
また、マークの言葉の属性が、示唆的なものか、非示唆的な(独創性のある)ものかで、大きく分けることができるとします。
示唆的なもの(機能、用途、効果、対象、構成、分野を示唆するもの)が分析には適しているようです。
また、非示唆的なものは、造語、キャラクター、イメージ、コーポ―レートブランドに分類しています。
1.示唆的なマークからは、新商品・サービスの内容が予測できるとします。
※ まあ、そうですね。
2.特許調査と商標分析を組み合わせることで、特許調査が当該分野のベテランでなくともできるようになるという説明もあります。
※ 面白いのですが、特許調査は私には評価できません。
3.競合企業の事業分析については、ライバルの売上、利益の情報と組み合わせて、ライバル企業の事業構造変化などを分析できるとします。
※ 通常、ライバル企業の事業別売上データ、商品別売上げデータがあれば、商標分析までは不要かもしれません。最近のビール会社のように統計データを出さないようになれば、商標情報はもっと重要になるかもしれませんが。
次にネーミングについて、面白い分析がされています。
1.独創的な商標の方が、利益率が高い
2.示唆的な商標の方が、宣伝広告費を抑えることができる(中小企業向け)
3.独創的商標の方が、同じ営業利益に必要な広告宣伝費が少ない
※ ここは、この論考の一番面白いところです。1と2があった上で、3となるのだと思いました。2だけ読むと、3は反対の結論になりそうですので。
高い利益を目指すのか、広告費の抑制を狙うのか、何となくマーケティング部門の人が経験でやっていることが、統計的に出てくると説得性が出てきます。
2015年の知財学会の予稿集にあるのだろうと思いますが、数字の出どころが少し分かり難いようにおもいました。
最後に、サービス化が進んでいるとあります。
2013年から、2018年の5年間でも、サービスの出願が4.5倍になっているという数字は、驚きです。
そして、サービスの方が、積極表示されることが多いですし、商標分析には適しています。また、第4次産業革命ワード(人工知能、仮想現実、拡張現実、自動運転、機械学習、仮想通貨など)を含む出願が多くなっているとします。
今後の商標は、技術ブランド、ソリューションブランド、エンジ二アリングブランドを中心になるとします。
そして、これに応じて、ブランド部門と商標部門が歩調を合わせて、社内のまとめ役になる必要があるとします。
確かに、ブランド部門と商標部門の協調は非常に重要です。
大企業の場合、役割分担が明確にあり過ぎて、知財部門とマーケティング部門がパキット割れており、商標専門家にネーミングのことをとやかく言われたくないという企業も多いように思いますが、理想論としては、この筆者のいう通りです。
これをするには、商標部門に従来と違った、マーケティングや統計の手法が必要になります。マーケティング部門に役立つ商標部門になるには、マーケティングリサーチ機能を商標部門が持つ必要が必要があるのかもしれません。
従来の権利取得から、だいぶジャンプアップすることになります。
先日、メーリングリストで回ってきた、ミルボンという化粧品(シャンプー)の会社の商標部門は、このタイプを採用して商標部門が、成果をしたようです。
その方は、研究所から、商標担当になった方です。もともと技術者であった方の方が、この種の話に違和感がないのだと思います。
法律系の商標専門家は、従来の世界が居心地が良いのですが、変化が必要なのではないでしょうか。