Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

シンガポール特許庁長官がWIPOのトップに

中国人の就任を拒む

2020年3月6日の日経に、国連の専門機関であるWIPOの事務局長を選ぶ投票が行われ、シンガポール特許庁長官のダレン・タン氏(Daren Tang)が選出されたという記事がありました。

国連知財トップの中国人就任阻む 日米欧、保護強化へ結束 当選はシンガポール人 :日本経済新聞

  • 知財の番人」に中国人トップが就くことに危機感
  • 日本人候補のWIPO上級部長は2020年2月中旬に撤退。日本などはタン氏支持へ
  • 日米欧がシンガポール出身者を支持。55票獲得
  • 中国人候補の王氏は28票。大差でシンガポール候補の勝利
  • 国連の専門機関は合計15。国際民間航空機関」(ICAO)や国際電気通信連合(ITU)など、4機関で中国人がトップ。中国政府・企業より
  • 国連の分担金は1位が米国、2位が中国。主要ポストに中国人
  • 米国は「米国第一」で国連と距離。その間隙を縫って中国が存在感

というような内容です。

 

コメント

同日付の朝日新聞には、シンガポールのタン氏がこの分野で有力な存在だったことも理由という記述もあります。

 

WIPOの事務局長は、現在4代目だそうです。

 

初代 へオフル・ボーデンハウゼン(オランダ)1970-1973

二代 アーパッド・ボクシュ(ハンガリー)1973-1997

三代 カミール・イドリス(スーダン)1997-2008

四代 フランシス・ガリ(オーストラリア)2008-現在

世界知的所有権機関 - Wikipedia

 

初代を除いて、10年以上の長期政権です。特に、ボクシュ氏は24年間という長期です。

このボーデンハウゼンは、『注解パリ条約』("Guide to the Application of the Paris Convention for the Protection of Industrial Property As Revised at Stockholm in 1967")のあのボーデンハウゼンです。

ヘオルフ・ボーデンハウゼン - Wikipedia

 

シンガポール人になったということですが、シンガポール人といっても中華系のシンガポール人です。欧米人でも、アフリカ人でもなく、中華系なんだなと思いました。

日本人も頑張って欲しいですが、専門機関でTOPになりうる人材というと簡単には育成できません。相当長期に、育成をしないといけないように思います。

シンガポールのタン氏は特許庁長官とあります。

 

次のサイトに経歴が紹介されていました。

タン氏は48歳で、経済産業省に入り、各種の貿易交渉や知財交渉を担当し、弁護士でもあり、2012年からシンガポール特許庁に入り、2015年から特許庁のトップとあります。

Singaporean Daren Tang set to head UN intellectual property agency WIPO - CNA

 

これだけの経験を審査官出身者でするのも無理があります。日本にも優秀は方は沢山いるのですが、数年で特許庁長官が変わる日本のシステムでは無理だなという気がしました。

 

さて、中国の知財保護が不十分という場合、技術移転の強要であるとか、模倣品の製造とかを指すのだと思います。

すでに特許法や商標法の整備、裁判所の整備、出願件数、国内企業同士の多くの係争などを見ていると、多少の運用上の問題はあるとしても、このあたりは既に問題ではないように思います。

 

技術移転などについては、契約自由の原則が支配する欧米と、政府許可や実質上の政府指導のようなものが支配する中国の差だろうと思いますが、この改善は急には進まないように思います。

新規案件からはやり直すとしても、合弁会社の場合、既存の契約は10年なり、20年なりの期間は有効でしょうし、中国企業が折角獲得している既得権を手放すとも思えません。

火種はくすぶり続けるはずです。