Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

美容ローラー特許権侵害訴訟

知財高裁が4億4000の賠償命令

2020年2月29日の日経に、美容機器メーカーのMTG名古屋市)とファイブスター(大阪市)の特許権侵害訴訟の判決が紹介されていました。

特許侵害の損害、逸失利益で推定 知財高裁が判断 :日本経済新聞

  • 5億円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決
  • 約4億4000万円の賠償命令
  • 知財高裁は、損害額の算定方法について判断枠組みを提示
  • 特許法は、侵害品の販売数量に製品一個あたりの利益額をかけて損害額と推定
  • 製品に対する特許の貢献度合いを考慮するかが争点
  • 一審は特許が販売に寄与した割合を考慮して、約1億1000万円の賠償命令
  • 高裁は、特許による特長が製品の一部にしかない場合でも、販売で得られたはずの利益全額を権利者の逸失利益として推定できると判断
  • 一審の特許が寄与した割合の考慮を、規定や根拠がないとした

コメント

逸失利益(得べかりし利益=得たであろう利益)の話ですね。特許権者有利の判決なので、時流に乗った判決ということなんだと思います。

 

この特許は製品の基本的な部分を占める、重要な基本特許なんでしょうか。

もし、特許が複数ある製品であるとか、被告も特許を沢山持っていて、それを原告も使っているような状態なら、事情も違うようか気がします。

枝葉末端の特許で、製品全部の逸失利益までの損害賠償が認めらるとなると、ちょっとやり過ぎだと思います。

このあたりは、別に判例評釈などが出てくると思いますので、それを読んでみたいなと思いした。

 

さて、数年前、世界中でアップル対サムスンスマホの訴訟があり、特許と意匠の価値の差というものが話題になっていました。

医薬品や化学品は別として、電気機器の特許は結局、効力範囲が特定機種に限定されたり、特定の機能に限定されたりして広くありません。

一つの製品で数千以上の特許が使われているとなると、ますます、特許は部分的な扱いしかされません。

しかし、意匠は製品全体についてのものですので、サムスンに出された高額の損害賠償額の判断の「ほとんど」は意匠でした。

 

今回のこの製品の場合、オリジナルメーカーと通従した後発メーカーという区分けもあったんだろうと思いますが、意匠権侵害ではダメだったのかなという気はします。

日経の写真を見る限り、素人的には、製品形態は類似といえば類似に見えます。

 

もしかして、意匠の悪いところが出たのかと思いました。すなわち、細かく権利を設定してしまっているというものです。

J‐PlatPatで見てみました。そのところ、ファイブスターはマッサージ器でこの製品の意匠権を、例えば登録第1628623号など持っているようです。

混同説の立場からは、意匠は商標と同じように、登録になったら使用できると、出所表記的に考えることが多いですので、デザイン的には使用可能となります。そうなると特許で争うしかなかったのだと思います。

これは、日本の意匠が創作説を採用できておらず、利用意匠の考え方が、「そっくり説」でとどまっていることから生じているように思います。

 MTGも本来、この意匠の登録無効を争って、意匠でやっても良かったのではないかと思います。

J-PlatPatを見ると、香港の会社の登録もあるので、こちらも消さないといけませんが。

 

無効で争うと、特許庁を敵に回すことになりますし、無効にしてから侵害認定をして、損害額の認定をしていると数年かかり、即効性がないということで、特許中心になったのかもしれません。

 

しかし、将来的にも、商品をちゃんと抑えるためには、今からでも、意匠無効もやっておきべきではないかという気がします。

 

知財高裁の判決です。教えてもらいました。損害賠償論に詳しい人の解説が欲しいところです。。。

https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/file/31Ne10003_yousi.pdf