Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

美容ローラー特許権侵害訴訟 その2

判決の内容

 

知財高裁のWebサイトに、今回の知財高裁判決と地裁判決の紹介があります。

大合議事件 | 知的財産高等裁判所

判決の要旨

https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/file/31Ne10003_yousi.pdf

判決の全文

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/272/089272_hanrei.pdf

原判決の全文

https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/file/28wa05345_gensin.pdf

 

日経でポイントとして紹介されていたのは、当該特許の利益への寄与度です。

 

判決を見ると、もともと、特許は2件あったようですが、1件の特許については、特許発明の技術的範囲に属さないと判断されており、2つ目の特許についてのみ侵害が認定されたようです。

2つ目の特許は、軸受け部材と回転体の内周面の形状についての特許です。

 

製品は美容ローラーです。原告は有名な会社で、原告の製品にはソーラーパネルもあり、微弱電流が流れているそうです。また、プラチナコートされており、価格帯が違います。

原告の製品が約24,000円で、被告の製品は3,000~5,000円だそうです。

 

判決は、一個あたりの利益を割り出し(これにも論点はあるようですが)、それに売り上げが減った個数をかけています。被告の販売個数が35 万1,724個とあります(相当多いです)。

そして、価格帯が比較的異なるという面やその他の事情で、約5割の割引をしています。その結果が、3億9,006万円で、これに弁護士費用5,000万円を加えたのが、今回の知財高裁の判断です。

 

一方、地裁判決では、この2つ目の発明の部分の、製品全体への寄与度を10%としています。しかし、知財高裁ではこの考え方を認めていません。

 

法律に規定がないし、そうすべき根拠がということが理由のようです。引用すると、

(5) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
仮に,一審被告の主張が,これらの控除とは別に,本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても,これを認める規定はなく,また,これを認める根拠はないから,そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない。

 とあります。

 

民間企業同士がライセンス交渉をするときは、地裁判決のいうような寄与度の感覚があると思いますが、それを考慮していません。基本発明であるとかの説明のためのロジックも特にない感じです。

 

逐条解説を読むと、特許法102条1項は、平成10年法改正で導入とあります。

https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/document/cikujyoukaisetu/tokkyo_all.pdf

20年も前の法改正です。

 

今回のように、販売に直結するような基本特許でなくても、その寄与度が考慮されないとすると、相当厳しいなと思いました。

 

3億9006万円を35万個で割ると、1,109円です。一個3,000円~5,000円のものを販売して、通常、1,000円の利益はないように思います。被告にとっては相当な吐出しになりそうです。

原告側の損害をみないといけないのは分かっていますが、被告としても無い袖は振れないとならないか心配です。

 

特許権侵害をすると大変なことになるというのはわかりましたが。。。