Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

「型式名の使用と商標の保護」を読みました

知財管理 2019年12月号

知財管理の2019年12月号に出ていた、竹原懋(つとむ)弁理士の標記のタイトルの論文を読みました。サブタイトルに「商標権の効力の及ばない範囲」とあります。

 

紹介されていた判決は、大阪高平成31年2月21日判決、平成30年(ネ)第2025号 商標権侵害差止等請求控訴事件です。

原告も被告も、同じ特殊な産業用のLEDを生産販売するメーカーで、問題になったのは、型式名の「LDR」という3文字の標章です。

この裁判では、被告の使用は商標的使用ではなく、商標権侵害に当たらないと判断されています(商標法26条1項6号の抗弁の成立)。

 

今回の判決では、型式名(型式記号、製品品番など、言い方は色々あると思います。)が商標的使用ではないと判断されていますが、論文では結論が反対の「SVA等事件」(商品「ポンプ」と「ポンプ部品」、「SVA」等の商標の使用に関する事件、平成17年7月25日、大阪地裁平成16年(ワ)第8276号)にも言及されており、どのような場合には商標的使用になり、どのような場合に商標的使用にならないか、対比して説明してあるのが、参考になりました。

 

具体的な内容は、知財管理誌で確認いただいきたいのですが、理解したのは次です。

 

SVA等事件において、型式名も商標の使用となることがあると判示されています。

一方、LDR等事件では、下記のような事情(他にもあるのですが、代表的と思ったものを記載しました)があれば、商標的使用ではないとされ、抗弁理由となることがあるというものです。

  • 標章がカタログ等で顕著に表示されておらず、一覧表や価格表における型式名の一部として表示されるにとどまり、
  • 他にブランドやシリーズ名として把握しうる商標が使われており、
  • 型式名の由来が、商品の形態・機能・色・寸法から説明でき、
  • 型式名が商品選択の手がかりではなく、あくまで自社商品の内部での区別のためのものである、というような場合です。

 

もう一つ、型式名については不正競争防止法も関係あるようです。

不競法2条1項1号の周知商品等表示混同惹起行為にあたるものとして、商号の略称としても周知な型式名の使用差止が認められた事例(「TF型式番号事件」(平成8年1月25日、大阪地裁平成5年(ワ)第1326号))が紹介されています。

大阪地裁、大阪高裁ばかりですね。大阪では型式名での争いが多いのしょうか?

 

さて、実務上の指針として、竹原先生は、商標調査は経由しておくべきだが、商標出願は予算の関係で現実的ではないので、本判決を参考に使用方法の指導をすべきとされています。

公式に書くなら、そうなると思いました。

 

ただ、企業からは、使い方には注意するので、何とか商標調査の手間を回避できないだろうか?という質問がありそうです。

J-PlatPatを見て、諸般の事情をベースに自分で判断することができる企業の商標担当者ならまだしも、どんどん生まれる型式名について、外部の事務所に費用を出して本当に調査すべきなのか?という疑問です。型式名の数は商標数以上にあるのではないかと思います。

 

このあたりは、企業が自身で基準を決めて、ルール化しておかないと仕方ないところだと思います。

 

最後に、この論文、次のような言葉の使い方がされていて参考になりました。

まず、商標法2条の商標の定義に本質的機能の要素がないためにPOS事件のようなものが発生するというところを、出所表示機能、品質保証機能と機能論の言葉で説明しています。自他商品識別力ではない点、良いなと思いました。

また、標章と商標という言葉の使い分けがしっかりされているように思いました。MarkとTrademarkは本来ちゃんと使い分けるべきですね。 

 

ちなみに、海外での考え方は、以前の知財管理に紹介がありました。 

nishiny.hatenablog.com