Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

ネット授業の著作権

教材の利用に許諾が必要

2020年3月30日の日経に、ネット授業に著作権の壁があり、教材の利用に個別に許諾が必要であり、対応策となる補償金支払い制度はまだ動いていないので、政府による明確な方針が必要という記事がありました。

ネット授業に著作権の壁 教材利用 個々に許諾得る必要 補償金制度間に合わず/規制緩和を求める声も :日本経済新聞

  • 新型コロナウイルス対応のため、大学でネット授業が拡大。同じ動きは小中学校も
  • 著作権法では、対面の授業(と他会場への同時中継)は、無許諾・無償で著作物を利用可能
  • それ以外の、教科書の図表を映す、音楽を流す、文学作品の朗読などは、許諾・有償。
  • 政府の知的財産戦略本部では、著作権の制限の要望
  • 2018年5月に、スタジオ型のリアルタイム配信、オンデマンド配信、予習復習のためのメール送信について、授業目的公衆送信補償金等管理協会による分配の仕組みを導入
  • しかし、未施行
  • 文化庁著作権団体に格別の配慮を要望。JASPACなどは柔軟に対応するとの表明
  • 新制度の早期施行か、要望で権利者に無償を続けるかについて、政府の明確な方向性を求める声

というような内容です。

コメント

大学の入学式がなくなったり、授業も遅れるようですし、授業がネット化されるのも仕方ないという状況です。

リアルな授業では無許諾・無償で利用できた著作物ですので、権利者としても、本来、リアル授業でする予定だったものが、今回の新型コロナで、この機会に著作権の制限があっても、特に経済的不利益がないように思います。

 

反対に、一般論として、リアルな授業では利用者数なども限定的ですが、ネットの授業では一時期に、多くの人が著作物を利用できるので、ある程度の歯止めがあっても良いかなという気はします。

 

今は、授業目的公衆送信補償金管理協会のサイトを見ると、権利者団体は、

現在、教育関係者の皆様が必要とされている利用に対して、緊急措置として特別に配慮し、ICT を活用した著作物の円滑な利用については可能な限り協力をさせていただく所存でございます。

ということを発信しているようです。

SARTRAS 授業目的公衆送信補償金等管理協会

https://sartras.or.jp/wp-content/uploads/200305_seimei.pdf

 

正面から文字通り読むと、今回は特別なので、気にしなくて良いと読めます。今、急に分配制度の運用開始はしないようです。

 

この文章ですが、「可能な限り」というのものが反対解釈を生む可能性があります。後々、何か言われるかもしれないというように、読めないこともありません。各著作権管理団体も、他人の著作権を預かっている立場ですので、多少のエキスキューズは必要として入った程度の「可能な限り」ではないかと思います。

大学や教育関係者からすると、ちょっと怖いなというところです。

 

新聞では政府の方針が必要とあります。

 

※ この問題、本日の日経によると、今月内にも政令を改正して、2020年度に限り、教材として著作物を使った授業をネットで配信できるようにするとあります。

大学の遠隔講義支援 文科省、10万人に通信装置貸与 :日本経済新聞

どうやら、解決済みのようです。

 

著作権という私権の制限の話とすれば、本来は、国会マターなのかなと思すが、政令で改正できるというのは、権利でもなく、利益の調整という話だからということでしょうか。