Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

知財侵害の刑事罰

模倣品とそれ以外(「故意」を中心に)

2020年3月号のパテントは、「知的財産と刑事罰」という特集であり、巻頭の論考は弁護士の近藤惠嗣先生の「知的財産侵害に対する刑事罰ー理論と実務ー」でした。

 

比較的読みやすいですので、是非、現物を読んでもらいたいのですが、私が理解したことは次のようなことです。

  • 国際的には知的財産侵害に刑事罰は一般的ではない。刑事は偽物や模倣品対策(Counterfeit goods)などの、悪質な商標権侵害で有効だが、特許権侵害に刑事罰を科すことにアメリカ、イギリスは強く反対
  • 特許権侵害に侵害罪があり、また、非親告罪とした日本とは異なる
  • 日本の刑事罰の適用には「故意」が必要。「未必の故意」(結果が知財権侵害になっても構わないという認識がある)でも良い
  • 法の不知は故意を阻却しない
  • 商標の場合、商標権の存在の認識と類似性の認識が必要
  • 著名商標である場合は、未必的に商標権の存在を認識しているだろうという。あるいは、警告があることで認識できる
  • 「あてはめの錯誤」がある場合は、故意を阻却しない
  • 特許権侵害の場合は、他人の特許権の存在の認識は必要。「あてはめの錯誤」は故意を阻却しないが、「事実の錯誤は故意を阻却する
  • 違法性の認識を欠いた場合は、故意又は責任が阻却されるという前提の判例あり
  • 無効理由の存在は、違法性阻却理由
  • 権利無効が主張された場合、無効理由の不存在は検察官に立証責任
  • これらより、我国でも、実務上は、知財侵害事件で刑事罰の対象になるのは、模倣品事件中心。それ以外は無罪になるケースが多い

コメント

刑事罰の適用には、構成要件該当、違法、有責が必要と、大学時代に聞いた記憶がある程度であり、これまでも、刑事罰に遭遇したことはないので、あまり気にしていなかった論点です。

 

論考の最後の方に、国外では刑事罰が知的財産保護の手段として重要な役割を果たしている国があるというのは、アジアの各国だと思います。

刑事といっても、経済警察だったりして、行政(罰)に近いものではないかとも思います。

 

冒頭のアメリカやイギリスの反対というのは、昔、北京大学の教授に教えてもらったことがあります。そのとき、驚いて聞きました。日本で知財の勉強をしていると、当然、民事と刑事の救済があると学ぶのですが、北京大学の先生は中国には刑事罰はない。これはアメリカと同じという説明だったと思います。

この点、日本でも刑事罰になると条文上列挙してあっても、実際は、ほとんど、告訴の受理もされず、刑事は模倣品専用というのが、実務であるというのが、この論考の説明ですが、そうなら日本も中国やアメリカと実際は大差はありません。

 

アメリカ法やイギリス法が、大陸法と大きく異なるのは、中世が続いていることだと聞きます。大陸法は民事と刑事が分離しているが、アメリカ、イギリスなどのコモンローの国では、未分離なところがあり、これが、特許権侵害に刑事罰がなかったり、民事に制裁的な3倍賠償があったりする理由という説明です。

 

3倍賠償は、推進派もいますがが、産業界は反対という構図かと思います。法律専門家は法制度の面からも反対なのだと思います。

制裁は、刑事が担当すべきという理由です。自力救済の禁止と同じです。

 

ただ、実際上、模倣品以外には適用されていないということからすると、刑事はあまり機能していないので、3倍賠償が魅力的に見えます。

それが日本の法理論上無理がある場合は、先日の知財高裁のように得べかりし利益(逸失利益)を大幅に認めるということになるのかなと思いました。

 

もう一つ、消費者庁の是正命令は、捜査権限などがないと即効性としてはまだまだかもしれませんが、日本版の行政罰になる可能性があります。