Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

シリーズ商標の紹介

香港の弁護士の論説

2020年2月号のAIPPI誌に、香港の弁護士さんが書いたシリーズ商標を紹介する論説がありました。タイトルは、「商標の権利範囲を拡張する手段:香港におけるシリーズ商標出願の活用」です。

  • Series trade markは、一つの出願に複数の商標の登録を認める
  • 主要な特徴が互いに類似する商標。商標の同一性に実質的な影響を与えず、異なるのは識別性のない特徴だけ(商標令51条(3))
  • 英国の判例が先例になる
  • 追加費用なし
  • 商標のいくつかのバージョンを包括的に保護可能
  • 香港の他に、他のコモンロー法域で存在(英国、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、マレーシアなど)
  • 具体的には、
  1. 書体、フォントの違い
  2. 大文字、小文字の違いや、下線や境界線の違い
  3. 繁体字簡体字の違い
  4. 色彩のバリエーション
  5. 句読点などの違い
  6. 複数の要素のある商標の、要素の位置の違い
  7. キャラクター商標のポーズの違い
  • 同一性のないとみなされる場合の事例が、一つ紹介されれいます。ある図形なのですが、色彩の商標と黒で表現した商標をシリーズにしようとしたが認められなかった事例です。香港では商標見本の補正ができないのですが、シンガポールでは認めらるとして、グレースケールのトーンでの表現に補正可能とあります。
  • TWGの判例の紹介がありますが、シリーズ商標との関係は少し分かりにくいように思います。
  • また、オーストラリアとシンガポールでは、基本となる商標の後ろに記述的な言葉を付けたものがシリーズ商標として、認められるとあります。

コメント

香港の代理人は、色彩について、シリーズ商標を使うことを勧めてきます。カラーの商標出願は、白黒でも出しましょう、という程度の意味に捉えています。

 

シリーズ商標は、連合商標のように類似範囲の商標について類似関係を予めつけておいて、移転時に一括譲渡を求めるという趣旨のものではなく、「同一性の範囲」を予め明確にしておくという程度のもののように思います。

 

今は、連合商標を採用しているのは、非常に少なくなっていると思います。アフリカなどで、たまに指令を見る程度です。

しかし、効力範囲を拡張したらり、後続の商標に先代の商標のエッセンスを継承するなど、連合商標は、商標戦略・ブランド戦略上は使えた制度だったように思います。

 

ある接頭辞を好んで使う会社が今でもありますが、これは非常に連合商標向けです。KODA〇〇、FUJI〇〇、DIA〇〇などです。

今更、連合商標や防護標章制度ではないと思いますが、防護標章を廃止しても、問題ない法律に早く持って行ってもらいたいと思います。

(※ 日本の防護標章制度は、1996年法改正のときに無くす方向でしたが、ソニー商標責任者が、著名商標保護が不十分な中で、防護標章制度も無くすなど言語道断という強い反対があり、特許庁がもっともだと折れて残りました。あれから、時間は立ちますが、著名商標の保護のレベルは依然と低いままです。すでに著名商標の保護のレベルは、中国やインドその他に大きく負けています。著名商標の保護を入れると、どうしても登録主義の欠陥に行き、混同概念の導入や使用主義に近くなるので、それを避けたい業界関係者が多く、ここが日本の商標制度の問題点になっていると思います。既に鬼籍に入られていますが、当時のソニーの責任者の思いを、よく理解していないと思います。

本当は、欧州流でも良いのですが、おそらく、日本では、商標の相対審査を止めるわけにもいかないので、①4条1項15号の運用をうんと強化する、②反対に11号の運用をアメリカ程度にうんと緩める(商標登録を、使用の前提ではなく、訴訟条件と位置付けなおす)、付与前異議に戻す(著名商標権者の力を借りる)、というようなところが、審査主義と著名商標の保護のバランス点としてはあるのかなと思います。)

 

この論説によると香港では、1938年英国商標法時の判例を参考に、シリーズ商標を判断しているとあります。

英国商標法の歴史は、1875年に登録制度ができ(先使用主義)、1919年法があり、1938年法ができ、1994年の共同体商標と整合性と取った現行法になっているようです。

この1938年法は、56年続いたことになり、この英国法の影響下にある国は多いのだと思います。

英国の1994年法は、CTM/EUTMを前提にしたものですが、最近のマレーシアは、この当時の英国での議論を反映していると聞きました。

しかし、相対的拒絶理由を審査では判断しないという異議待ち審査の考え方を含めて、1994年法がコモンロー諸国に伝わっていることはないようです。