Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

治療薬とワクチンの特許プール

G7で提案

2020年5月25日の朝日新聞デジタルに、安倍首相が6月に開催されるG7で治療薬とワクチンの特許プールを提案するという話が出ています。

 

これに関連して、2020年5月20日の日経に、WHOがワクチンの特許に制限をかけて安くワクチンを供給することをめざす決議案を採択したという話が出ています。

新型コロナ:ワクチンの公平な普及へ特許制限 WHO採択 (写真=ロイター) :日本経済新聞

  • ジュネーブの特派員の記事
  • WHOが新型コロナのワクチンを公共財として、強制実施権の活用を手段として示した
  • 一般に医薬品の特許使用料は50%程度の料率となるところ、強制実施権を使うと数%で使え、ワクチンを安く供給できる
  • WHOの決議には強制力はないが、ドイツやカナダなど先進国で法整備をしている
  • 一方、米国などは国際協調とは一線を画す
  • 日本は「特許プール」を提案。すでにエイズ治療薬で特許プールの仕組みがあり、同様な仕組みを想定

 

一方、強制実施権について、批判的な記事を同じ日経が掲載しています。

新型コロナ:特許制限に副作用大きく コロナ薬で技術共用進む :日本経済新聞

  • 知財記事を書いている記者によるもの
  • 特許制限には副作用が大きい
  • WHOの決議文には、知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)などと整合することを各国に求めるという文言が盛り込ている
  • TRIPSには緊急事態や公共の利益のために、各国が強制実施権を発動できると定める
  • しかし、WHOの真意は、公正な価格での十分な供給の開発プロジェクトなど、あくまで自発的な取り組みを重視すること

  • WHOの決議文は、特許の制限や強制実施権という文言を避けており、WHOはあくまで国や企業の自発的な協調を重視しているという知財専門家の見解を紹介

  • 強制実施権の発動は国家間の緊張という副作用を生み、国際連携を阻みかねない
  • 2012年に独バイエルの抗がん薬に強制実施権を発動したインドは、日米など主要国政府や企業が反発
  • 強制実施権を発動しなくても、世界では複数のコロナ医薬品の開発プロジェクトが進行
  • 製薬会社に資金を提供する「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」は製薬会社に十分な量のワクチンを公正な価格で提供しなければならないとする
  • 医薬品の特許プール「メディシンズ・パテント・プール(MPP)」も、3月末に特許プールの対象にコロナ対策の技術を追加
  • レムデシビルの特許もこのプールに参加。インドなどの後発薬メーカー5社と無償ライセンス契約を結んだ

 

コメント

ジュネーブの記事は読んでいたのですが、知財の記事は見てませんでした。打消し記事のような感じです。

ジュネーブの記事にも、特許プールの話やG7での日本の特許プールの提案までは載っていますが、「ワクチンに特許制限」という見出しは、ちょっと勇み足かもしれないということで知財の記事があるのだろうと思います。

 

確かに、強制実施権の設定は、新薬開発の意欲をそぐという点はあると思います。

ただ、知財の記事にも、イスラエルが3月中旬に、中国ではコロナ治療薬として使われている薬に、強制実施権を発動し抗エイズウイルス薬「カレトラ」の後発薬を輸入することを決めたということありますし、

ドイツやカナダなどでも強制実施権の法整備を進めているとありますので、このあたりは強制実施権に近い話です。

 

強制実施権の発動を視野に入れて、今回は追い風が吹いているという意味では、先のジュネーブの記事のいう通りであり、強制実施権がイスラエルにように発動されないためにも、特許プールなどに参加するなどして、早く、安く、広く、薬やワクチンが行き渡るようにしないといけないという話のようです。

 

薬やワクチンの動きは分かりましたが、トヨタキヤノンが参加している、新型コロナ対策知財の無償提供については、その後、動きを追えていません。 

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