Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

不使用取消審判における使用の意義

パテント 2017年9月号

昨日の大塚教授の論文で紹介されていた、同教授の上記のタイトルの論文を読みました。

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/2898

 

大塚教授は、不使用取消審判でも商標的使用が必要という立場です。

 

平成21年の調査で、インターネットで、商標の使用がまったく確認できなかった登録商標は57.2%。少なくとも一部の類似群コードについて使用が確認できなかった登録商標は全体の87.9%という調査があるようです。

(平成21 商標出願動向調査報告書)

また、不使用取消の請求件数は、年間1,413件(平成21年)で、約93%の1,313件が取り消されているとあります。

 

そして、教授が不使用取消が問題になった判例(審決取消訴訟)を、300件調査した結果、商標的使用が必要という判決が50件、不要という判決が6件だそうです。

その6件のうち3件が、最近の髙部判事が裁判長の判決で、「全く使用されていない登録商標は権利者以外の商標選択の余地を狭め、国民一般の利益を不当に侵害するおそれがある」としており、すなわち、何らかの態様で使用をされていれば足りるとなるようです。

学説も、網野説、工藤説などが商標的使用不要説とあります。

 

一方、必要説は、多くの判例があり、こちらも多くの支持者がいるようです。飯村元判事などは、こちらに分類されています。

 

コメント

大塚教授の登録要件としての「識別力」と、不使用取消や侵害で出てくる「出所表示機能」を、峻別するという考え方は、3年前のこの論文で既に出ています。

 

私は、商標的使用という言葉が何を指しているのか、イマイチ不明確なので、あまり好きではないのですが、

大塚教授は、出所表示機能を発揮する態様での使用という趣旨であるとして、積極的なようです。この趣旨なら、基本的にはそうですねとしか云いようがないように思います。

 

しかし、髙部裁判長や工藤先生などが、現在の主流派なのだと思います。

不使用取消は、当事者系の審判ですから、本来であれば、当事者双方が丁々発止やりあって商標としての機能が発揮されているとか、商標の使用と言えるかとか、やるべきなんでしょうが、書面審理中心でそこまではやっていないのかなと思います。

 

権利者側なら、特にハウスマークに多いのではないかと思いますが、多少の使用があれば大目に見て欲しいですし、

反対に、請求人からすれば、使っているとは言えないだろうとなります。

 

髙部判事も、企業視点に立っていただいているのだと思うのですが、既存の企業の担当者は楽できますが、それが企業の本当ブランド力わ高めるとか、経済政策として良いのかは疑問があります。

 

不使用取消ですが、取消成功率は高いようです。ほとんどの不使用取消審判では、答弁されないということだと思います。

 

しかし、不使用取消の請求件数自体は多くありません。

一年間に10万件は新規に商標登録になりますので、そもそも、不使用取消請求の絶対数が少なすぎます。

5倍10倍あっても良さそうです。

 

これを活性化されるなら、中国のように不使用取消請求を、審判ではなく、審査レベルからスタートして、不服があれば審判に行き、訴訟に行く、という方法論が良いと思います。

中国では審査では不要説のように形式的にチェックして、審判ではより実質的に必要説でチェックしています。

審査ですので、特許庁弁理士の料金を下げることができ、不使用取消請求をかけやすくなります。一つの方法の有力な方法ではないかと思います。

 

脱線しますが、大塚教授は、登録要件として使用を要求しないことを登録主義と定義されており、古典的な定義だな思いました。

今は、商標権が登録に基づき発生するか、使用に基づき発生するかが、登録主義と使用主義の違いと説明されることが多いのですが、私は個人的には大塚教授の古典的な定義が良いのではないかと思っています。

 

更に蛇足ですが、アメリカのコモンロー上の権利と登録による権利は、一体で捉えるのかと思っていたのですが、どうも、双方は、まったく違うものらしいのです。登録上の権利を放棄しても、コモンロー上の権利の放棄にはならないようです。

 

アメリカも定義次第で、登録主義になりますね。