Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

論考再読(その1)

「小売等役務制度に関する事例紹介と今後の課題について(制度導入から十余年を経て)

 

パテント2020年2月号に掲載されていた、山田朋彦弁理士(令和元年商標委員会委員長)の標記タイトルの論考を再読しています。

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3495

 

以前のブログでは、この論考は判例の紹介の論考なのですが、判例には言及していませんでした。

nishiny.hatenablog.com

 

小売等役務に関する判例として、多くのものが紹介されています。

1.「elle et elles」事件(知財高判平成21年11月26日):

下着の陳列販売、広告には商標を使用しているが、商品自体には商標を表示していないが、商品商標の使用と認めた事件。

※ このタイプの判例は数件あるようです。

小売等役務の導入前の出願分については、商品商標の登録があれば、あえて役務商標の登録がなくても良い(商品商標の使用があるとして、不使用とはしない)というもののようです。

しかし、2陳列は別として、条1項及び2項から、広告はそもそも商品商標の使用といえるようにも思いました。

 

2.「NYLON」事件(知財高判平成29年2月23日):

「被服等の小売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」において、商標「NYLON」が識別性があるかどうかについて、陳列棚に「NYLON」とあると品質表示となるので拒絶することは正当というものです。

※ 山田先生も、この判決には批判的なように読めました。

小売等役務の識別性と商品の識別性は、クロスサーチされる範囲とはいえ、違うように思います。

学生時代に大学の近くに「NYLON」という名称の古着屋があったことを思い出しました。お店の名前と素材は、役務から見ると→陳列→商品となり、商品から見ると商品→陳列→店となり、陳列は真ん中にきますが、役務と商品では、重点の置き方や想起・連想の仕方が違うように思います。

小売でのお店の看板、紙袋などは重要と思いますので、そちらに重点を置くことは必要ではないかと思いました。

 

3.「スーパーみらべる」事件(知財高判平成23年12月26日):

スーバーが「飲食料品の小売又は卸売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての商標「スーパーみらべる」と、商品「茶、コーヒー」等についての商品「MIRABELL/ミラベル」の類否について、出願商標「スーパーみらべる」の使用実態まで考慮して、非類似としたものです。

※ ひらがなとカタカナの違いはありますが、標章は類似となっても仕方ないように思いますが、小売と商品が本来、非類似ではないかと考えさせる事例です。

 

4.「エリエール i:na」事件(知財高判平成28年1月28日):

出願商標「エリエール i:na」は商品「ティッシュペーパー」を指定したものですが、「紙類の小売り又は折市売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」という役務についての「e-na」商標を引例として拒絶されました。結論、非類似となっています。

※ 標章の態様が違う(「i:」と「e-」、書体など)のと、こちらは本願商標中に著名商標「エリエール」があるので、それに引っ張られた可能性があります。商品と役務間ということで、紹介されているようですが、これは標章の類似の話ではないかと思います。

 

(以下は、次回、書きます)