Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

デマントがフィリップス補聴器を製造販売

全国の眼鏡店などで販売

2020年7月29日の日経(神奈川版)で、補聴器メーカーのデマント・ジャパンが、フィリップスブランドで補聴器を製造販売するという記事がありました。

デマント・ジャパン、「フィリップス」の補聴器販売 :日本経済新聞

  • 国内では難聴を自覚する人で、補聴器を使う人は14%に留まる
  • 知名度のある商品名を武器に潜在需要を掘り起こす
  • デマンド・ジャパンは、これまで、「オーティコン」「バーナフォン」の2ブランド
  • 新たにフィリップスブランドを加える
  • 中心価格帯は20万円
  • メガネスーパーヒアリングエイド、コストコなど約250店舗で販売する

 

コメント

デマント・ジャパンが川崎の会社なので、神奈川版には出ていた記事ですが、重要な記事だなと思いました。

資本関係のない会社にハウスマーク、コーポレートブランドをライセンスするケースのようです。

デマント、フィリップス補聴器を販売網拡大して発売

 

デマント・ジャパンは、世界的な聴覚ヘルスケアメーカーのデマントの日本法人だそうです。

https://www.diatec-diagnostics.jp/news/news-jp/2020/20200701#

同社のWebサイトによると、次のようにあります。

日本において補聴器の製造・販売および聴覚検査装置や補聴器関連機器の輸入販売を行ってまいります。補聴器事業においては、オーティコン、バーナフォンの補聴器ブランドに加え、2020年よりロイヤル フィリップス社とのライセンス契約のもとフィリップスブランドの補聴器を製造・販売しています。

これまでも2つのブランドを使い分けていたようです。

https://www.oticon.co.jp/

http://www.bernafon.jp/

更に、ブランド力のあるフィリップスブランドなら、拡販が見込めるかもしれません。

 

昔から、眼鏡屋に、シーメンスの補聴器があり、ドイツ国旗の3色旗の小型看板が良くありました(※ シーメンスのブランドカラーではなく、ドイツのイメージを活用しているところがポイントです。)

フィリップスブランドなら、シーメンスに十分対抗できそうです。

 

デマントはデマントで、補聴器事業では有名なデンマークの会社だそうです。

デマント(Demant)は、多くのブランドを扱っているようです。

https://www.demant.com/

Philipsも入っています。これは日本だけの話ではないようです。

 

ちなみに、OTICONは、J-PlatPatで見ると、昭和39年から補聴器に登録されており、名義人はデンマーク国のオテイコン アクチ-ゼルスカブとあります。

Bernafonは、平成9年の登録で、名義人は、スイス国のベルナフォン・アクチエンゲゼルシヤフトとあります。

これもラインセンスインの商標でしょうか?あるいは、既に子会社化しているのでしょうか?

 

海外のブランドや商標の帰属やライセンス関係は、複雑ですね。ヒアリングでもしないと訳がわかりません。

 

ただ、フィリップスの場合はブランドライセンスであることは確かです。

医療機器は、フィリップスの本業と思っていましたが、補聴器のような小型商品は、信頼のおける会社にライセンスするということがポイントです。

さすがに進んでいるなと思います。

日本マクドナルドの株式売却

50%→35%へ

2020年7月29日の日経に、米マクドナルドが保有する日本マクドナル 株ら式を売却する方針であり、保有比率は50%から35%になるという話がありました。

米マクドナルド、日本法人の株式を一部売却へ (写真=AP) :日本経済新聞

  • 資金で、グローバルでの新型コロナウイルス危機からの立て直しを図る
  • マクドナルドは、日本マクドナルド株を、カナダとシンガポール法人を通じて保有
  • 保有比率は49.99%。15%程度を売却へ
  • 拒否権は持つ3分の1以上は維持
  • 日本事業の実績、現地経営陣への信頼
  • 35%の維持は、日本事業へのコミットメントを示すもの
  • マクドナルドは、3%の経営指導料を受け取る契約
  • 経営幹部は、米マクドナルドからの派遣
  • 2014年度、15年度が赤字。16年度からV字回復し黒字。6月には上場高値

などとあります。

 

コメント

親会社の子会社のコントロールのためには、50%超が一番良いですが、40%以上で経営支配権があれば、連結決算の対象にもできますし、子会社の支配のためには通常はこれを目指します。

反対に最近は、上場子会社を廃止して、100%子会社にする動きも盛んです。

 

子会社などへの商標ライセンスも、出資比率が50%超を基本とするという会社は多いと思います。

かつては、100%しか商標ライセンスしないと言っている会社もあるぐらいでした。

 

マクドナルドの動きには、この考え方とは違います。35%の出資比率ですが、ブランド(商標)の使用は当然、許可する前提です。

 

米国流のブランド(商標)ライセンスでは、品質保証(Quality Control)があれば、ブランド(商標)のライセンスができるという思想です。

資本はのファクターは、日本の血縁に基づくブランドライセンスの考え方です。

(※ なお、日本の許諾被許諾は、商標ライセンスではありません。同意書の亜流です。)

 

3%のロイヤルティの支払は、経営指導に対する対価ということですが、商標の使用許諾を含んだものだろうと想像します。

 

経営指導は、経営全般の指導、海外工場からの製品供給などの経営資源の使用、成功事例の共有、マーケティングの会議など、色んなものがあるのだろうと思います。

 

米国流のブランド(商標)ライセンスでは、ブランド(商標)の使用の前提が、品質保証(Quality Control)です。

通常の商標の品質保証では、商標の使い方(How to Use)も重要なのですが、やはり製品の品質そのものが重視されます。マクドナルドのビジネスなら店舗運営や店舗デザインの統一感、CMが醸し出すイメージなども、サービスの質の問題として、品質管理の一環かもしれません。

このあたりまで来ると、経営指導と品質管理はマージして、区分けが難しくなるような気がします。

米国的には品質管理と商標ライセンスは区別できない関係にありますので、結局、経営指導と商標ライセンスもワンセットのもので区別しずらいものとなります。

 

現在は、社長が米国本社の派遣の方で、米マクドナルドの価値感を体現していると思いますが、現在の社長が交代しても、米国から社長が来るのだろうなと思いました。米国からの社長派遣も、品質管理に一役買っているような気がします。

そのためには、大株主を設定するのではなく、個別の株主ということになるのだろうとなと思いました。

 

画像のリツイート

著作者人格権侵害との最高裁判例

2020年7月22日の朝日新聞で、ツイッターに無断投稿された写真をリツイートしたら、ツイッターの使用で自動的にトリミングされ、撮影者の氏名が見えなくなり、著作者の氏名が表示されなくなっていることが、「著作者人格権」の侵害にあたるという、最高裁の判決があったとの記事を見ました。

 

●結論:

上告人であるツイッター社の上告棄却。リツイートした人のメールアドレスの開示をツイッター社に命じる

●理由:

リツイートにより、「転載厳禁」と書かれた上部と男性の氏名の書かれた下部が切り取られて表示。(これはツイッター社の仕様)

●裁判長補足意見:

ツイッターに「利用者に対する周知など適切な対応が期待される。」とツイッター社に対応を促す

●反対意見:

「利用者に大きな負担を強いる」として反対意見あり

●背景

原告の男性は、無断投稿とともに、このリツイート時のトリミングを問題視し、プロバイダー制限責任法に基づき、投稿者の特定を求めて提訴

一審から、無断投稿のツイートは、著作権侵害。しかし、リツイートについては、一審はリツイート者は侵害の主体でないとして、著作権著作者人格権の侵害の何れも否定

二審では、リツイートにつき、著作権侵害は否定。トリミングによる画像改変と、著作者名表示のなくなったことが、著作者人格権の侵害と認定

最高裁は、「仮に重いを感じられたとしても、出版やほかのネット上の投稿と異なった解釈をすべき理由にならない」とし、高裁を支持

 

コメント

裁判所のサイトでも、この判決は公表されていました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/597/089597_hanrei.pdf

 

ツイッター社は、トリミングをすることなく、画像をそのまま表示することが求められそうですが、グローバルな仕様なので、日本のツイッターのためだけに仕様変更はできそうにありません。

 

今後、写真付きのツイートをリツイートする人は、著作者人格権侵害として、投稿者名の特定がされ、掲載停止のemailを受ける可能性を認識しながらリツイートする必要があります。

 

ただ、無断転載してしまった元のツイートの画像が削除された場合、そのリツイートは画像がなくなるのではないかという気もしますので、リツイート者が沢山いる場合に、本当に掲載停止のemailが送られるのかは疑問なような気はします。

 

ツイッターというとトランプ大統領は最大限活用しています。政治的な利用が多いSNSです。

リツイートに関しても、表現の自由の論点が何か出ていないのかなと思いましたが、特に記載ぎありません。純粋な著作権著作者人格権の事件として処理されています。

今回は、元々が「スズラン」の写真ということのようで、特に政治的な意図のある写真ではなかったのですが、政治的な写真なら、表現の自由の議論になったのでしょう?

 

日本の最高裁判例が出ても、米ツイッター社が、簡単に仕様を変えるとも思えないのですが、この判例の活用次第では、ツイッター利用の萎縮効果があるように思います。

 

ネット上では、判決に対する批判する記事が多いようです。

 

 

新・商標法概説(その32)

登録事由の存否判断の標準時、団体商標、地域団体商標

登録事由の存否判断の標準時、団体商標については、特に特徴的な記載はありませんでした。

地域団体商標については、審査基準をだいぶ引用しています。

 

地域団体商標の登録要件は、

  1. 出願人は、「事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合又はこれに相当する外国の法人」であること
  2. 組合等の「構成員に使用される商標」であること
  3. 「商標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」こと
  4. 商標が地域名称及び商品又は役務jの名称等からなっており、次の各号のいずれかに該当する構成であること
  5. 地域の名称が商標登録出願前から当該商品・役務と密接な関連性を有していること

とあります。

 

コメント

団体商標は、大正10年法では団体標章と言っていたものを、平成8年法改正で、団体商標として復活したものです。ウールマークが代表例という説明があったように記憶しています。

 

昭和34年法で、商標に使用許諾制度を導入した(当時は画期的でした)ので、使用許諾で十分目的が達成できるとして、無くなったのですが、パリ条約には団体商標の保護の規定がありますので(7条の2)、無くしたことが勇み足だったのではないでしょうか。

 

パリ条約講和の手元の本(古いものです)を見ていると、同じ商標をある国では、「collective mark」(団体商標)といい、ある国では「certification mark」(証明商標)というとあります。

 

J-Plat Patで、団体商標と地域団体商標で、どの程度の件数があるのか見てみました。

団体商標:717件

地域団体商標:760件

 

イメ―ジ的には、地域起こしの一環で、もっと地域団体商標の数が多いのではないかと想像していたのですが、団体商標が頑張っているなという感じです。

最近でも、団体商標の出願や登録は割とあります。

 

地域名が冠されていないものは、団体商標になりますので、それはそうだなという気はしました。

 

団体商標も、地域団体商標も、「商標」ですので、通常の審査の対象になります。あくまで、3条の「自己の業務に」とか、「地域+商品名」という点についての、例外というだけのことのようです。

 

さて、地域団体商標の冒頭の登録要件を見ていて、3条2項の立体商標、新しい商標と同じく、出願前の使用を問題にしていることが分かります。

このあたりに、純粋な登録主義の限界が出ています。

地域団体商標も、最近の改正ですが、最近の商標制度は、出願前の使用を証明するようなことが多くなっています。

これは、純粋な登録主義では無理なところでありますし、商標制度自体が、自浄作用を発揮しているのではないかと思うようになりました。

 

 

 

新・商標法概説(その31)

著名商標(19号)-相対的不登録理由

「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国においける需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用するもの(前各号に掲げるものを除く。)」

 

この規定については、平成8年改正法の答申に基づき説明して、その批判が展開されています。

 

趣旨:従来、日本国内又は外国で周知な商標について信義則に反する不正の目的でなされた出願に対しては、商標法4条1項7号(公序良俗違反)及び同15号(出所の混同)の規定に該当するとの解釈で運用。しかし、解釈に頼るのではなく不登録理由として19号を新設。

 

要件:

・国内外で広く認識されている・・・答申は、10号の存在を理由に、この規定は日本及び外国の著名商標保護と説明。

これに対し、小野先生は、周知と著名の区別ができていない。また、主観的な要件を入れたために、規定が、主観的な不正競争目的をもった外国登録商標の登録制限規定になっていると批判。

・類似まで保護・・・答申が、類似の意味について外国商標の保護が厚くなりすぎないように、容易に想起できる程度の範囲にとどまると記載。

これに対しては、前半は良いが、後半の「容易に想起できる程度の範囲」は混同の範囲(※=類似の範囲)よりも広いと批判。

・不正の目的をもって使用・・・答申は、不正の利益を得ようとする目的のみならず、他人に損害を加える目的を含めた「公正な取引秩序に違反し信義則に違反する目的」とし、具体的には、先取り的出願、参入防止目的、代理的契約強要目的、希釈化・名声毀損目的を挙げている。

これに対して、「悪意の出願」の悪意や不正競争目的の立証は容易でないので、「他人の名声の不当利用」の方が立証が容易であり、不正競争防止法にこの「他人の名声の不当利用」を入れるべきという主張が展開されている。

 

コメント

不正競争防止法に、「他人の名声の不当利用」を入れることで、それが19号の解釈指針になるという意味でしょうか?

途中から、商標法の話から、不正競争防止の改正に移ってしまい、他人の名声は商標に限らず、会社や個人の名前であったり、出所地や産地の名声であったり、品種名や一般名称の名声であったりするので、これは不正競争の問題であるとしています。

 

全体に、19号の解説は、批判的です。

 

中国の人と話をしていると、この19号を相当評価しています。外国における周知商標は保護対象外という国がほとんどの中で、主観的な「不正の目的」という難しい概念はありますが、外国周知を保護するのは、珍しいようです。

 

最近は、「悪意の出願」をより正面から排除するのが流れですんで、周知と悪意を組み合わせる必要もないのかもしれません。

 

小野先生は、この規定は本来は外国「著名」商標の保護のための規定であるのに、外国「周知」商標の保護をしていることに批判をしています。

だた、この点は、海外では「Well-know trademark」の概念はあるが、それは「Famous trademark」を含む広い概念で、そもそも著名商標と周知商標が別という話ではないようです。

 

この点は、小野先生よりも、答申に軍配があがるように思います。

そもそも、類似というものは、画一的なものではなく著名度により、類似範囲は伸びちじみするという発想もあります。

 

平成8年当時は外国の著名商標の保護に視点がありましたが、「悪意の商標」の保護と考えると、この規定はありなんだろうと思います。

 

海外では基本的に商標の類似とは出所混同の範囲であり、また、日本の裁判所の混同的類似(類似と混同が一体化している類似概念)なら、周知商標と著名商標を区別する実益はありません。

 

ただ、日本の商標法は、裁判所のいう混同的類似(網野先生のいう具体的混同に近いですね)なのか、網野先生のいう一般的出所混同(特許庁や、商標業界の運用)か、明確でないところがあります。

 

ここは、抜本的な欧州や米国にならった商標法の法改正があるか、商標法の矛盾を裁判所が指摘するまで続くのではないかと思います。

あまり幸せな状況とはいえそうにありません。

 

また、各国からも消えた、防護標章登録制度が廃止できなかったのは、平成8年法改正の問題点ですが、その理由は日本の商標制度は著名商標の保護に欠けるという批判があったためですが、防護の存在は、類似を画一的なものと扱う考えが根底にあります。

 

真に著名商標の保護をするには、19号のように「悪意の出願」の保護ではなく、11号と15号の一体運用というか、類似を裁判所のいう混同的類似するしかありませんが、業界の反対がどこまで続くかです。

 

企業は、同意書を認めて欲しいと思っているので、主に特許庁の問題です。同一、極類似だけを11号で拒絶し(※現状の特許庁の運用はそれに近い?)、異議申立を全面に出すのが解決策と思うのですが、どうでしょうか。

 

 

 

 

新・商標法概説(その30)

品質誤認的商標(16号)、ぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する商標(17号)、立体の機能的形状(18号)

 

まず、品質誤認ですが、商品の「品質」又は役務の「質」とは、商品又は役務の特性という程度の広い意味です。

品質、質の良否についての誤認と、他の種類の商品・役務との誤認があるとあります。

産地又は役務の提供場所の詐称が、商品・役務の出所の誤認に留まる場合と、商品・役務の品質(質)の誤認につながる場合があるとします。

これは絶対的不登録理由です。

この規定は、公益保護のためのものであり、除斥期間の適用があります(47条)。

あとは、審査基準の解説です。

 

次に、ぶどう酒若しくは蒸留酒の産地を表示する商標ですが、TRIPs協定23条の2の規定に基づくものとあります。

相対的不登録理由です。

 

最後の立体的形状については、「機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる」の言葉で、3条2項との調整をしているとあります。

相対的不登録理由です。

 

コメント

新しく追加されてきた、17号、18号は特にコメントもないのですが、16号は、3条の識別性とセットで適用されることが多い条文です。

審査基準では産地のことを中心に説明しています。

 

審査基準に、商品「イギリス製の洋服」について、商標「JPOイギリス」というものは、本号に該当しない例として挙がっています。

 

産地自体を普通に用いられる方法で表示しても、3条1項3号で拒絶されますが、商標の中に一部分で存在するだけで、他に特別顕著性のある部分のあるときは、3条はパスするので、そのときは、この4条1項16号で対応する。

ただ、4条1項16号では、本当にその産地の場合は、商品を「イギリス製の洋服」などとすることで、品質誤認が生じないときは、パスできるというものです。

 

4条1項10号~15号という私益的不登録理由のあとに、16号という絶対的不登録理由が出てきており、

そのあとは追加された、相対的不登録理由です。

 

16号の場所としては、本当は、博覧会の賞(9号)のあとぐらいが適当な感じがします。

将来法改正があるとすると、絶対的不登録理由と相対的不登録理由は、別々に規定することになると思いますが、16号の内容は、絶対的不登録理由の最後あたりに来るのではないでしょうか。

 

公序良俗の7号も、絶対的不登録理由の総括的な条文ですが、商標の構成面から見た7号と、商標と商品・役務の品質(質)から見た16号という整理でしょうか。

 

小野先生の書き方で面白いなと思ったのは、赤で記載した部分です。

産地又は役務の提供場所の詐称が、商品・役務の出所の誤認に留まる場合と、商品・役務の品質(質)の誤認につながる場合がある。

特に下線の部分ですが、出所の誤認と記載しています。これは、生産販売会社の誤認(他人との誤認)ではなく、場所の誤認です。

この場所の誤認については、それによって、商品・役務の品質(質)の誤認につながる時は16号に該当しますが、単なる商品・役務の出所の誤認の場合、登録になるのではないかと考えてしまいました。

おそらく、特許庁的には、商品・役務の誤認の出所の誤認=商品・役務の品質(質)の誤認、と考えていると思いますが、面白い指摘だなと思いました。

 

新・商標法概説(その29)

混同的商標(15号)-相対的不登録事由

15号は、10号~14号までの総括的規定で、私益保護の規定とされる。不正の目的を除き、除斥期間の適用もある(47条)。

旧法は、これを公益的性格のもとしており、私益的規定と重複適用できるとしていた。そのため、「10号から前号に掲げるものを除く」には、重複適用を認めるべきという批判がある(豊崎)。

 

また、著名商標の場合は、商品又は役務の類似範囲を超えて、競業関係のない場合にまで適用される。

ただ乗り(フリーライド)、希釈化(ダイリューション)が、「混同を生じるおそれ」がある商標とする判例に、「ポロ事件」があり、

更に、親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係の営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同)を含むという判例に、「レール・デュ・タン」最高裁判決(審決取消請求事件)がある。

 

広義の混同を拡大することについては、第三者の商標の選択の範囲を狭めるという問題もある(ガールズウォーカー事件)。

 

破産企業でも、著名性が継続する場合もある「VAN事件」。

 

判例の紹介が多数あります。

 

15号の適用を肯定したものに、

ジャイアンツ」(清涼飲料)と「ジャイアンツ」(野球チーム名称)、

「株式会社群馬電通」と「電通

「みずほ」(工業所有権に関する手続きの代理又は鑑定等)と「MIZUHO」「みずほ」

などがあり、

 

15号の適用を否定したものに、

「ポラロイド」と「POLA

「CITY」と「CITYスーパーステップ」

KDDI Module inside」と「intel inside」

があるとします。

 

「力王」は、飲食物の提供では15号が適用され、金属製の建築又は建築専用材料では否定されています。

これは、取引者・需要者の捉え方と、払われるべき注意力の認定に影響されたものとあります。

 

コメント

だいぶ以前に、以前の会社で、意匠の責任者に紹介され、「力王」の知財の方とお話しをしたことがあったのですが、相当頑張っておられるという印象を持ちました。恥ずかしながら、当時は足袋の「力王」を知りませんでした。

 

15号は、異議や無効審判で当事者系のものと、拒絶査定不服審判系の査定計のものがあると思いますので、判例なども細かく見ないと何とも言えないのですが、重要な条文です。

 

強い商標(ブランド)は、商品力やマーケティング力(広告を含む)が作るものと言いますが、商標管理が作る面もあります。

強い商標を持つ会社の商標管理は総じて強く、徹底していることが多いように思います。商標管理とブランド力(ブランド価値)には、正の相関関係があり、商標管理が弱い会社では、強いブランドは作れません。

 

異議や無効で徹底的に争う姿勢を維持するのは、体力的にも大変ですが、これができる会社だけが、自由主義の世の中で生き残れます。行政庁が、11号を適用してくれるので、それを期待するということだけでは生き残ることは無理があります。

 

昔は、商標公報をどの会社も取っていて、分類を超えて、チェックをしていました。日本、米国、中国ぐらいですが。

それが、だんだん、クラリベートアナリティクスのWatching Reportになり、それは分類単位で料金が変わるので、主要分類しかとらないとなります。

しかし、これでは、戦う姿勢が維持できません。

 

中国などは、代理人がサービスで類似商標をチェックして送ってくれますし、欧州でもWatchingをしてくれるからこの代理人と指定があったりします。

 

生きぬくためには、多少のコストや手間は必要です。放置すると、どんどん商標が弱くなります。

商標管理のコストに、広告宣伝投資の1%かけている会社は、どの程度あるでしょうか。

1000億円の広告宣伝費を持つ会社があるとして、10億円の商標管理費用を持っている会社は、あまり聞いたことがありません。