Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

Rights(その7)

事例15から18(主に特許と意匠)

引き続き、特許庁の「Rights」を読んでいます。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

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15 株式会社システムスクエア:異物検査機の会社

特許のために、設計変更で苦労したり、特許請求の範囲を小さく書いてしまい失敗したりしたことを契機に、知財部門をつくり、二名体制。

弁理士の提案通りに権利化を進めるのではなく、会社の権利化目的に沿っているかを考えている。

特許出願は、製品を分解して行う。

知財で製品を守ることで、開発費を確保して、次の開発に回す。

海外では中国、欧州、東南アジアで権利化。

 

16 株式会社オーレック:農業機械の会社

農家のニーズを探り、製品化。

農家が変化しており、良い農作物を作る農家から、農業を経営し、農家自身がブランディングをしている。普段使うツールも、デザイン性の高いものを求めるようになった。

創業70周年を機に、オーレック自身がリブランディングした。「草とともに生きる」というコンセプトをつくった。

外部のプロダクトデザイナーを起用。

意匠も重要な知財と考えるようになった。

また、商標も「WEED MAN」「SNOW CLEAN」「Dr.MIST」とある。

 

17 株式会社シェルター:木造建築設計・建材開発の会社

大型の木造建築に同社の技術、製品が使われている。

地震に強い金物工法(KES構法)と耐火木材(COOL WOOD)。

社団法人を作って、技術を公開。市場を広げる。

一方、耐火木材の参入障壁は高い。大企業でも簡単ではない。同社の木材を使わざるを得ない。

訴訟では特許権だけでは立証が困難であり、意匠権を活用。

 

18 株式会社昭和:チタンの会社

技術者が辞め、会社の技術が流出する。

特許を取ることで、技術流出を止める。

チタンを活用して、電解還元水(健康)、高レベル核廃棄物の800年~1000年の保管(環境)、シリコンに換わる太陽電池(エネルギー)に進出。

特許は海外でも取得するが、海外事業にはパートナーが必要。

論文にも力を入れ、ネイチャー、サイエンスに掲載する。

 

コメント

各社面白いのですが、

「システムスクエア」は、特許出願は製品を分解して行うという点が面白いと思いました。特許を取得する意味は、知財サイクルの考え方に近いようです。

 

「オーレック」は、農家が昔の農家ではなくなり、単に機能性だけでなく、デザイン性を求めるようになっており、それに対応して、外部のプロダクトデザイナーを起用して、意匠をしているというのは新しい気づきでした。

医療機器の製品意匠が、相当良くなっているのですが、これは医療機器を使う医者や検査技師がデザインを重視するためと思います。

製品デザインについても、時代は着実に変わっているな思いました。

 

「シェルター」は、技術ブランディングですね。特に、工法を広め、部材の販売で収益を得るという方法が、参考になります。今度、技術ブランディングの話があったときに、使おうかなと思いました。

 

「昭和」は、特許の取得目的が、従業員が辞めることによる技術流出を防ぐためだったというのが面白いなと思いました。こんな人事的な意味もあるんですね。

また、ネイチャー、サイエンスに論文を載せたいなど、大企業でも一部の研究者しかできないことです。すごいなと思いました。

 

4社を並べると、

15 株式会社システムスクエア

16 株式会社オーレック

17 株式会社シェルター

18 株式会社昭和

となりますが、なぜか、「前株」の会社ばかりです。技術系の会社は、「前株」が好きなのかなと思いました。

「後株」よりは、新しい感じ、技術に強いイメージがあるのでしょうか。

ただ、社名自体は、「オーレック」以外は、独自性はありません。

 

中小企業が、社会的に認知をしてもらい、大きくなるためには、社名も重要ではないかと思いました。

社名は、コーポレートブランドでもあるので、通常の商標よりも、社名です。

Rights(その6)

13と14(道路建設業とパチンコ部品製造業のコラボ)

 

引き続き、特許庁のRightsを読んでいます。

13は、道路建設業のロードセーフティ株式会社の佐藤社長、

14はパチンコ部品製造業の落合ライト化学株式会社の落合社長です。

そこに愛知県知的財産支援総合窓口の井上さんが入り、3者の鼎談で話が進みます。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

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佐藤社長の言葉

  • 建設業だから、この規模だから、現場を知っているから取れる特許がある
  • 現場で若手が自分で考えてやっていることにヒントあり
  • 自分で製品を作ってみた
  • 落合社長と出会って、製造について相談できるようになった
  • 特許になるまでの途中で、依頼先の弁理士からきついことを言われ、心が折れた(そのとき、知財支援総合窓口の井上さんが「もうすこしだ」と励ましてくれた)
  • 世の中に役立つという評価
  • 売れるのはその次の段階であり、売れてこそであり、そこは自覚している
  • 特許にするまでの過程に意味がある
  • 本人、従業員の意識改革につながる、技術が培われる。これも特許の効果
  • 相乗効果で本業が引き上げられる
  • 特許商品をつくると、死んでも商品が残る

落合社長の言葉

  • 畑違いの依頼も、出来ないとは言わず、「ちょっと考えてみます」
  • 取引先の課長からの特許は取ってますか?の一言
  • (佐藤社長に勧められ)知的財産支援総合窓口に相談
  • もっと早く出会っていれば、(佐藤社長を)手伝えたのに
  • 特許は従業員のモチベーションを高める(特許証を飾っている)
  • 特許は経営者にしかできない
  • 特許があるというと、全部自分で作ったというと、営業先は前のめりになって話を聞いてくれる
  • 開発着手までは経営者が、大きくするには周りを巻き込む
  • 特許は「V字回復への近道」
  • 一見迂遠だが、低迷から脱する近道

コメント

相当感動ものの記事です。下町ロケットほどのダイナミックさはないですが、いい内容でした。

 

特許の独占排他権などは吹っ飛んでいます。ライセンスでもありません。特許を取ること、それ自体に価値があるという話です。

落合社長は、もともとパチンコ会社と一緒に特許を取ったことがあるので、特許に詳しいのはうなづけるのですが、佐藤社長のバイタリティはすごいなと思います。

 

しかし、知財総合支援窓口の井上さんは良い仕事をしています。

反対に、依頼者の心を折る弁理士の言葉とは、どのようなものだったのでしょうか。

 

よくブランドの世界で、インナーブランディング、インターナルブランディングといった、従業員のモチベーションを高めること大切どと言われますが、特許の取得が従業員のモチベーションを高めることもあるとはあまり気づきませんでした。中小企業で社長が率先垂範すると、この効果が出てくることがある、ということがよくわかりました。

 

インナーブランディングというと、CIツールを整えたり、従業員参画型のイベントを企画したり、自由闊達な風土をつくったり、という人事・総務系の施策になりがちです。

宣伝・広報発信ほどの派手さはないが、モチベーションの向上につながり、一定の効果がでるので、ブランドコンサルからは推奨されます。

 

しかし、お仕着せのインナーブランディング施策は、似たり寄ったりで、従業員の心を打つものではありません。

その点、このお二人、特に門外漢の佐藤社長の行動は、蛮勇にも見えますが、従業員の意識を根本から変えるように思いました。

 

やはり、ブランディング、ブランドづくりは、社長、トップ、経営者が自ら行うものですね。

Rights(その5)

事例09~12

続いて、「Rights」を読んでます。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

09 株式会社アーキビジョン21

海上コンテナと同じ大きさの木造建築物モジュールの「SMART MODULO」が紹介されています。SMART MODULOは、災害時に威力を発揮するもので、内閣府の推奨があり、書く都道府県で導入が進んでいるようです。

工法の特許もあるようですが、特許よりは商標が中心で、パートナーづくりのために、低額あるいは無償で、ノウハウ・アイディア・商標などをセットにして、知財ライセンスをしているとあります。

知財は、粗悪品がでてきたときの対処のツールとあります。知財取得が事業目的ではなく、事業を前進させるために、知財を使うとあります。

 

10 株式会社エレドック沖縄

独立系エレベータメンテナンス事業者であり、メンテナンスサービスの事業を知財権で守りたいと思い、沖縄県知財総合支援窓口に相談したところ、商標権の取得になったようです。

商標は社名にもある「エレドック」と犬のキャラクターの「エレドクター」であり、エレドクターはシールにして、エレベータに貼付しています。

子どもに見える位置にシールを貼付し、これが子どもに人気で、指名につながるとあります。

また、高齢化で従業員の仕事をつくため、機械式駐車場やフィットネス機器のメンテナンスに参入し、ここでは、「エレドクター」を商標にしているとあります。

 

11 株式会社ICST

NOZOMIブランドのハンディマッサージ機をロシアで販売し、薬局で85%のシェアがあり、毎年20万台売れているそうです。

日本ブランドには、信頼があるようです。

ライセンスが少し独特で、代理店には無償でコーポレートブランドロゴをライセンスして、露出を強化しているとあります。

また、ベトナムにも進出しています。

 

12 ののじ株式会社

お父さんがレーベンという会社で、便利な食器などを作っており、その販売会社の「ののじ」を息子が運営しているという関係です。

お父さんは特許明細書を自分で書くような技術者で、権利で守れないものは販売しないそうです。

ただ、技術的な説明だけでは消費者に商品の価値(ベネフィット)が伝わらないため、ののじ株式会社のスタッフが、理解しやすい言葉に翻訳した商標を考えています。伝え方が重要ということのようです。

弁理士を講師とした知財教育もやっているようです。

 

インドネシアなどの親日国、奥様同行で海外赴任している日本人が多い国をターゲットにしているそうです。

 

コメント

この4つは、商標ですね。

  • アーキビジョン21のSMART MODULOは、技術ブランディングと考えると良いと思います。
  • エレドックのエレドクターは、サービスマークですね。日立の「BUILCARE」、三菱の「弁慶」と似ています。
  • ICSTは、Japan Brandの活用です。FUJI(富士)などは、日本をイメージさせるブランド、商標の代表例ですが、NOZOMIも新幹線の「のぞみ号」として有名であり、日本をイメージするのだろうと思います。
  • ののじは、ネーミングというものの重要性を示しているなと思いました。

各々、面白い事例です。

 

中小企業と大企業が比較されますが、実は大企業といってもブランドや本社機構や研究所があるだけで、一つひとつの事業部は中小企業です。大きな事業部は3000名の事業部もありますが、小さい場合は200名程度の事業部もあります。

200名というと、中小企業と同じ規模です。

 

冊子からは、中小企業は中小企も頑張っていることも分りますし、中小企業が採用しているブランド戦略なり、知財戦略は、大企業と同じ、あるいは遜色ないことも分ります。

 

ICSTの、代理店に対する、コーポレートブランドのライセンスが面白いなと思いました。ここは、大企業はなかなかできない点です。ベンチャースピリットを感じます。

 

 

 

Rights(その4)

事例8「ゆかり」

Rightsの続きです。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

赤しそふりかけの「ゆかり」は、今回のRightsの目玉商品ではないかと思います。

 

  • 商品名の普通名称化をさけるため、商品パッケージにおいて、「ゆかり」は三島食品株式会社の登録商標ですと記載。レジスターマークを入れることで、その商品をどのぐらい大事にしているかを伝えられ
  • 最近は、コレボレーションの依頼が多い
  • 原材料としての「ゆかり」の使用と、名称(ブランド)としての「ゆかり」の使用
  • 原材料の商品の売買契約+商標権の使用許諾契約
  • コンビニのおにぎりなどでもコラボ商品(おにぎりのパッケージに、「ゆかりⓇ御飯」「三島食品の『ゆかり』使用」の表示
  • 権利があるのでライセンスできる
  • パッケージの表示について、文言や表示位置にあまり細かく言わない。杓子定規な商標権管理はしない
  • 売り上げが大事、商標権にこだわらない
  • 最近、コラボが活発に。どこまで商標権を取得するか。例えば、「Yukari Classic」というリキュールを発売
  • 商標権は、独占排他権を全面に出さず、他の会社との関係を築くためのツールと考える
  • 契約内容の見直し、微調整が大事

 

コメント

非常にプラクティカルな運用です。

お話をされている方は、法務の方であり、純粋な知財担当・商標担当ではありません。

商標担当の場合、権利取得や使用管理にこだわりがありますが、この方は、ライセンスや仲間づくりに、ウェイトを置いておられるようです。

ただ、Ⓡの重要性を力説されている点などは、商標担当者の立場からしても、理解できます。

 

全体に「ゆかり」の成分ブランディング(技術ブランディング)の要素が高いように思いました。

 

nishiny.hatenablog.com

 

nishiny.hatenablog.com

 

コンビニのおにぎりの写真があり、「ゆかり」を使っているのですが、三島食品のロゴとは同じようで、微妙に違いますし、白いパッケージ・印刷であり、紫色の「ゆかり」のイメージではありません。

ただ、「ゆかりⓇ御飯」「三島食品の『ゆかり』使用」の表示があります。

ゆかり御飯 おにぎり コンビニ に対する画像結果参考用

消費者とすれば、紫色のパッケージで、ロゴも三島食品のロゴである方が、あの「ゆかり」のコラボ商品であるということがしっかりと遡及できるのではないかと思いました。

 

本文には紹介されていた、CoCo壱番館からオファーがあって作った三島食品のカレーのふりかけなどは、CoCo壱のブランドイメージがストレートに伝わります。

CoCo壱番屋 監修 カレーふりかけ

 

コンビニおにぎりの場合は、「ゆかり」も一つの構成要素ですが、「甘辛茎わかめ入り ゆかりⓇ御飯」とあり、ゆかりだけではなく、「甘辛茎わかめ」というものの重要な要素のようです。このあたりが、カレーふりかけとの違いになるのでしょうか。

CoCo壱のカレーに比べて、「ゆかり」は、脇役なのかもしれません。

 

ロゴやカラーにこだわるのは、商標管理よりも、ブランドマネジメントです。

今回は、三島食品の法務の方が出てきて、話をされています。社長、営業、法務という登場人物はイメージできますが、もし、ブランドマネジメント担当者がいたら、このコンビニおにぎりについては、どのようなコメントをするのかなと思いました。

 

通名称化の防止、Ⓡについては、商標面から対策が取られていますが、「ゆかり」のブランドイメージの拡散のようなところは気になります。ある意味では希釈化に通じます。

難しい運用をしているなと思いました。

Rights(その3)

事例5~7、知的財産管理技能士

続いて、特許庁の「Rights」を読んでいます。今日は次の会社を読みました。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

■05 興研株式会社 マスク、クリーンルームの会社です。

中小企業が生きるのはオンリーワンの技術や製品

知財は第三者評価

販促、宣伝に予算がない。世間にアピールするツールが特許

経営者が知財にコミット

年に一回発明審査委員会(経営者が3軸で4段階評価、総合8段階評価)

発明者が経営者にアピール

282名の会社で100名入れる会議室。月1回、定例研究発表会

 

■06 金剛株式会社 図書館等の異動棚の会社です。

特許は取引先の安心感。信頼の証

模倣品対策としての、特許と意匠。特に意匠は海外の模倣品対策で有効

特許は広い権利と、国内で有効

特許は差別化

特許は新たな取引のツール

東京の顧問弁理士のもとで、半年間研修

知財担当者は新しいものづきが良い

新入社員は、顧問弁理士が研修会

50年前の特許権侵害が知財と向き合う契機

 

■07 金井重要工業株式会社 繊維機器、不織布の会社です。

技術、営業、総務を含めて、全社員で「知的財産管理技能検定2級」を受験

1年かけて20回の勉強会

特許公報が読めるようになる

公報は新しい開発をするときのアイディアのヒント

特許は文献的活用がメイン

 

■知的財産管理技能士の話

知的財産管理技能士は、企業や団体における発明、ブランド、メディアコンテンツなどの知財の適切なマネジメントで、経営貢献

1級から、3級まで。これまで35回実施。受験者は35万人。10万人が合格

学習指導要領に知財教育が盛り込まれている

有形資産がない中小企業でも、知財を活用すれば大企業に勝てる時代

知財の「権利」の部分の活用では十分でない

知財の情報をいかに、経営戦略、事業戦略に生かすか。それをグローバルに

会社全体に、知財のベーシックな知識が必要

弁理士ではなく、中小企業診断士の声が有効

知的財産管理技能士がいると、弁護士、弁理士との意思疎通が楽

「新規性」は、オリジナリティの証明

知財マインドの育成が肝要

知的財産管理技能検定の受験には、知的財産研究教育財団の公式テキストの活用を

 

というような内容です。

 

コメント

興研と金剛は、技術開発をアピールしていますが、特許は「オリジナリティの証明」であり、事業のパスポート的な使い方をしています。

よく商標は、事業のパスポートと言いますが、特許も事業のパスポート的な役割を果たしているようです。

特許の取得が、「世間へのアピール」や「営業のツール」であったりするようです。

 

大企業の特許のボリュームで、同業他社とのバランスをとって、クロスライセンスとは全然異なる活用の仕方です。

権利行使に目が行きがちですが、確かに、このような使い方はあるなと思いました。

 

金井重要工業は、特許の活用を、「文献的活用」に力点を置いています。これもありです。

また、知的財産管理技能士の宣伝につながりますが、技術だけではなく、営業や総務など、全社員向けに勉強会をやっているというのは、驚きです。

これは、すごいなと思います。

 

この資格、2年ほど前のブログで触れたことがありました。 

nishiny.hatenablog.com

 

1級には、特許、コンテンツ、ブランドと3つの専門領域があります。ブランドというタイトルですが、学科試験にはブランド戦略的な内容が入っていますが、実技試験の内容は商標実務です。

ブランド戦略、ブランドマネジメントでは、ブランドマネージャー認定協会の資格が人気であます。

 

本当は、知的財産管理技能検定でも、ブランド戦略、ブランドマネジメントを実技試験でも取り入れたいところなんでしょうが、特に実技試験の作成が難しいという感じでしょうか。

 

(学科試験)

210307_1Qbra_g.pdf (kentei-info-ip-edu.org)

(実技試験)

201114_1Qbra_j.pdf (kentei-info-ip-edu.org)

 

ブランドという言葉を、商標に変更するのは容易なのですが、それはそれで寂しいので、良い解決策はないものでしょうか。

 

 

 

 

 

Rights(その2)

事例1~4、産業財産権専門官まで

昨日ご紹介した「Rights」というタイトルの冊子を見ています。今日は、事例01から04と、産業財産権専門家の座談会まで読みました。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)

 

01 アシザワ・ファインテック株式会社

粉砕機の会社です。

「特許情報分析活用支援制度」を使って、通常の同業他社ではなく、顧客の技術ニューズを発掘した。開発で注力すべき点を明確にするために、特許情報を使った。

特許情報から顧客の製品を整理し、今後取り組み営業先を特定し、新規顧客のニーズをつかんだようです。特許情報は、技術がマッピングされた、重要な営業ツールになるようです。

また、バランスシートに知財を記載し、金融機関から技術的な優位性を理解してもらえた。

 

02 株式会社ピカコ―ポレーション

はしご、脚立の会社。

数年前、他社から意匠権侵害で訴えられた。和解となったが、その間、営業もできず心配した。営業と開発が、知財の重要性を意識した。

弁理士、弁護士から、税関では特許よりも意匠が有効と聞き、特許+意匠を取得ヘ

 

03 株式会社ジンノ工業

プラントの配管の会社。マイクロバブル発生装置を開発。

お客さんの要望を聞き、アイディアが浮かび、そのアイディアの実現手段を特許文献で調べ、それを参考資料に開発スタート。

開発時間、コストをショートカットできた。

愛媛県知財相談総合窓口に相談した。

 

04 株式会社フジワラテクノアート

醸造関連機器の会社。糀づくりを無人化したプラントを販売。

ノウハウと特許の区分けをしている。

産業財産専門官の支援を受け、営業秘密(図形、取引先リスト)の保護のために、情報セキュリティポリシーを制定。客先には図面は見せても、資料は渡さないなど。

全社員を対象に、職務発明規定も制定。イデアの出る会社に。

数字のことを言い過ぎると、遊び心がなくなり、新しい価値を生み出さない。

 

産業財産専門官とは

中小企業の知財担当は少数で、孤軍奮闘。専門家が話を聞くなかで、課題や方針を整理。

 

産業財産権専門官の座談会

特許庁の職員が企業訪問。5名で、年間300社の中小企業訪問。

話を聞き、経営目標に近い、特許、商標、ノウハウ等での保護を提案。

知財活動は、ブランドづくり、社員のモチベーション、営業トークにもなる。

 

というような内容です。

 

コメント

ここまで読んで、特許庁は特許や商標の出願を審査するところだでけはなく、企業の知財部門のようなことをしているんだなということを知りました。

産業財産専門官は、まず、中小企業の話を自ら聞き、それをINPITなどにいる専門家に橋渡しをしているようです。

INPITには、大企業の知財部経験者が沢山、再就職しています。

全体に、大企業のリタイヤ組を活用しているという印象です。

 

特許庁は中小企業支援の方法として、企業の知財部のようなことをやっているんだなと思いました。

 

ただ、この業務は、本来は、国の予算で行うべきではなく、中小企業自らの費用で行うのが、本来ではあります。この点、そこまで特許庁がやってくれるのかという声があるというのは、その意味だと思います。

 

また、特許庁が、無料のコンサルをされると、本来、特許事務所や弁理士がすべき内容を、特許庁が税金を使って行っており、民業圧迫という批判もありえます。

 

また、ただ、特許庁やINPITが努力しても、使える予算には限りがあります。

考え方とすると、中小企業に知財の活用方法を理解してもらうことは、日本にとって非常に重要なことだということですので、その方法が分らない中小企業に対して、特許庁が支援して、成功例をつくり、その成功例を見た、他の中小企業が自ら知財戦略をスタートするきっかけになるというのが、この事業の目的のような気がしました。

  

問題は、弁理士側にもあります。いつまでも、明細書を書くという基本業務にとどまるのではなく、この種のコンサル、分析、業務にシフトすべきでしょう。

弁理士がしっかりしないので、特許庁とINPITの企業出身者が見本を示してくれているということも言えます。

 

Rights

特許庁知財活用事例集「Rights」

特許庁のWebサイトで、知財活用事例集「Rights」という冊子を知りました。

https://www.jpo.go.jp/support/example/document/kigyou_jireii2020/all.pdf

 

 

まず、弁理士の土生哲也先生の巻頭言があり、今日はこれを読みました。土生先生は金融機関におられたようです。弁理士と金融というのは、これまではあまりない組み合わせですが、金融のバックグランドを持っているというのは、コンサル等をするには強みなりそうです。

 

さて、内容ですが、知財の役割を、「侵害で他人を排除する」、「ライセンスする」という狭義にとらえるのではなく、6つの役割があるとします。

  1. 他との違いを見える化する 
  2. 従業員のレベルアップ推進
  3. 競争優位確保
  4. 取引先との交渉力アップ
  5. 顧客にオリジナリティを伝える
  6. パートナーとの関係をつなぐ

1.権利にするには、他との違いを明確にする必要があり、権利化するだけでも重要な効果がる。よく、権利は活用しないと意味がないといわれるが、それは、権利行使という一面しかみていない。マニュアル作成でも、同様にノウハウを見える化する効果あり。

2.マニュアル活用で、また、表彰や報償の制度で従業員のやる気を引き出す、有用な情報の社内共有。

3.は、知財権の基本的な部分であるが、知財を取ること。

4.の取引先との交渉力アップが可能になり、中小企業として大企業との力関係にも影響する。

5.の特許や意匠を保有していることを伝えることは、自らが元祖であることの証明になり、オリジナリティを主張できる。

6.のパートナーづくりはライセンスであり、特許庁に登録されていることは、ライセンシーに安心感がある。

 

知財の重要性は、模倣品対策だけではない。

 

  • 機能的価値が重視される時代から、情緒的価値が重視される時代となり、5.の顧客にオリジナリティを伝える力が重要となり、
  • 一対一の競争の時代(侵害排除の時代)から、共創(つなぐ、ライセンスによる仲間づくり)になっているとします。

 

そして、この6つの視点から、この冊子の事例を見ることができるようです。

 

コメント

 

会社に入りたてのころ、知財センター長に、知財部門の役割は、

  • 事業の安全確保
  • 創作意欲の向上
  • 競争優位性の確保

だと言われたことがあります。

 

上記の6つの分析では、事業の安全確保というのはないようです。

商標調査などは、事業の安全確保の最たるものです。

ところが、意匠調査や特許調査となると、特許マップは別して、出願の無駄排除、登録の可能性アップとなり、直接的な事業の安全確保ではなくなります。

商標担当者が、使用可能、使用不可と回答するのが一般的ですが、こんな恐ろしい回答をなぜするのかと、意匠の責任者に何回か言われたことがあります。

 

さて、この昔に言われたものも、それなりに分り易かったのですが、上記の6つの分析は、現代的です。

この分析、使えそうです。

 

法律は、特許=登録をベースに、侵害排除とライセンスだけでできています。これに対して、実際の世の中ではもう少し複雑に動いています。

この6つの視点の分析は、よく出来ているなと思いました。

 

なお、冊子には、特許、意匠、商標といったという知財の活用事例が、20社ほど紹介されています。PDFを印刷してみたのですが、ぼやけて見にくいので、印刷版が欲しいところです。

全国の知財総合支援窓口で、印刷したものが入手可能とあります。2020年5月13日の記事なので、まだ、残っているかは不明です。

知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」について | 経済産業省 特許庁 (jpo.go.jp)