Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

フランク三浦 勝訴確定

最高裁でも登録維持

2017年3月7日の朝日と日経に、関連記事が出ています。昨年4月、知財高裁から商標登録有効との判決が出た「フランク三浦」(本当の商標は「浦」の点がない文字です)の上告審で、最高裁の決定が出たようです。フランク・ミュラーからの上告が棄却され、大阪のフランク三浦側の勝訴が確定し、商標登録が有効であることが確定しました。

 

コメント

最高裁の決定は読んでいないのですが、新聞記事レベルの情報に基づいてコメントします。この事件は、昨年4月、大きなニュースになりました。ワイドショーや情報番組で大きく紹介されました。今回は、高裁判決維持ですので、ニュースバリューは低いようですが企業のブランド管理、商標管理の視点からコメントします

商標の類似は、称呼、観念、外観の内、いづれか一つが類似すると商標は類似となると教えられ、特に称呼類似が類似の基本と教えられました。これは昔の話であり、最近は総合判断が重視され、特に外観などが識別の要素になります。(だんだん中国の商標実務に近づいてきました。)

それはさておき、この「フランク三浦」事件ですが、企業の視点で、ブランドを守るという観点では考えさせられる判決です。個人的にフランク・ミュラーの代理人に、もっと頑張ってもらい、商標登録の無効を勝ち取ってほしいと思っていました。

観光地の土産物店で、サントリーの「Boss」のTシャツをパロディにした、「Bose(坊主)」のTシャツが売られており、修学旅行生が喜んで買うというシーンをご存知だと思います。また、パロディに寛容な社会は、文化のレベルが高いことを示すなどという意見もあります。

これが文化やパロディで止まるなら、まだ良いのですが、著名商標のブランド価値を低下させるとなると別の問題です。「フランク三浦」の安物時計が大量に出回ることで、本家の「フランク・ミュラー」の高級時計の人気がなくなり、売り上げが下がる可能性があります。安物を持っていると勘違いされるような時計に大枚を叩けないという心理です。代理人にはこのような具体的な主張を、ある程度の証拠をもって主張して欲しかったのですが、知財高裁判決をみる限りでは「売上低下の事実」の提示や「アンケート調査結果」などの主張はありませんでした。

フランク・ミュラー」側としては、「フランク三浦」に勝手にパロディを出されて、商標権まで取られて、踏んだり蹴ったりなのですが、高裁判決も言っているように「広義の混同」についての主張が通り一遍であり、力が入っていないと感じました。法律事務所もあまり情報や予算をもらっていないと推測します。(ここは「フランク・ミュラー」社のやる気の問題でもあります。商標権が取られるのは嫌なので訴訟をするが、本気でこまっているのではないように思いました。現在のところ、売上も下がっていないのかしれません。ただし、「フランク三浦」の存在の、将来への影響は不明ですが。

また、今回の結論は、当事者の問題ではありますが、国の産業政策の問題でもあります。また、国際常識にも反しているとも思います。全体として課題のある判決という気がします。

最高裁はいいとして、知財高裁がテクニカルに、単に、法律論のレベルで、著名商標の保護を考えるからこのような判決が出るだと思います。(商品「リンゴ」に商標「青森」を登録するのとあまり変わりません。法律の前に一般常識を働かせる必要があるのではないでしょうか。)

日本の商標法や不正競争防止法では、正面から、dilutionやpollutionを認めずに、条文に該当するときだけそれらしい結果となりますが、それでは、本質的に著名商標の保護が十分ではありません。

世界で戦えるブランドや商標の育成が、国家百年の計であり、いつか消えていくパロディ商標に大切な商標権を付与することに、産業政策から見た正当性はないと思います。

フランク・ミュラー側から侵害訴訟で訴えられ、差止や損害賠償はかわいそうなので、おまけでフランク三浦を助けてあげるのであれば、私も理解しますが、重要な商標権を付与するのはそれとは意味が違います。今回の「フランク三浦」は商標権を取得してから商品を売り出したそうですが、今回のこの騒動を海外の商標専門家が見てどう思うか心配です。商標協会などで、一度、海外の商標専門家にアンケートを取ってはどうでしょうか。

フランク・ミュラーの代理人には、日本の産業発展を願う大きな気持ちで、フランク三浦に侵害訴訟を起こし戦っほしいと思っています。裁判所も、これが、海外のラグジュアリー・ファッションメーカーの商標ではなく、日本のソニートヨタでも同じ判断をしたのでしょうか。