Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

特許庁 審査にAIを活用

商標の審査で、AIをどう使べきか

2017年4月24日(月)の日経の記事です。特許審査にAIを活用する方針という話です。

www.nikkei.com

特許の新規性の引用例の検索作業や、特許出願の分類作業、図形商標の画像認識での引用例の検索作業で、AIを活用するという方針のようです。AIに学習させるだけの業務資料があって、AIが答えを出せそうな20業務を対象とするとあります。この業務について、実証実験をして、費用対効果を見るようです。

一般からの問い合わせに対する回答案をAIに作成させる実験をして、人間とほぼ同水準の作業ができるということでした。

 

コメント

AIが法務や知財の業界で何ができるか、最近、話題になっているようです。法務では、ディスカバリーで活用する、特許では新規性の引用例の検索、商標では図形商標の検索ということでしょうか。

特許や商標の審査は、コンピュータが一番早く時期に入った業種の一つです。BRANDYの商標の称呼検索も早かったですし、ペーパーレスも早い時期からスタートしています。

この記事にあったように業務資料があり、また、一定の需要がしっかりあるということが必要なのだと思います。

私見ですが、商標で、AIを活用する時代が本当に来るなら、是非やってほしいのは、図形商標や文字商標の類似ではなく、「商品」・「役務」の類似判断です。

1992年の法改正のときに、実務家の要請で商品・役務の類似群コードが残ってしまったと聞いています。類似群コードは、実務家には非常に楽なのですが、これを墨守すると商標制度が発展しません。最近の裁判所がマークについてみるべき判決を出している(?)としても、商品・役務は、そもそも論点になっていないことが多く、そのため、審判にも裁判にもなりません。

商品・役務は、コンピュータがコード検索しかできず、全文検索もできない当時の状態のままです。日本分類は商品分類としては良くできていると思いますし、類似群は便利ですが、類似群をありたがっている精神構造にいる限りは、日本の商標制度はあまり良くならないと思います。

類似群コードの発想は、特許庁の業務の効率化をベースにしています。日本法の欠点は、周知商品/著名商標の保護が、マークの面でも商品・役務の面でも足りないことと、先使用権を軽視すること、商標や商品・役務の類否を特許庁の審査基準に頼り過ぎていることなどです。そのため、商標の世界の結論が、世間の常識とズレていることが多いように思います。

1992年の国際分類採用時に、類似群コードをやめていれば、業務上の多少の障害はあったとしても、このあたりの議論が大きく進み、いまごろは、世界に冠た立派な商標制度の国になっていたかもしれません(日本から、商品・役務の類似群コードを入れた中国が商標出願大国になっているのは不思議なのですが...)。

AIを入れる前提で、もう一度、商品・役務の類似をやり直してどうでしょうか。具体的には、審決例や裁判例を積み重ねて、それをAIに調べさせて、商品・役務の類否を判断するようにしてはどうでしょうか。

ちなみに、同時通訳、翻訳についてのAIの話はこちら:

nishiny.hatenablog.com