Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本の特許訴訟

勝訴率は低くないという記事

2017年5月15日の日経に、最高裁特許権の侵害に対する訴訟統計を見直したという記事がありした。

特許権者が勝つのが、2割と低いという批判があるが、訴訟中の和解を含めると4割勝っているということで、今後は、この和解を含めた統計を継続的に出すとあります。

www.nikkei.com

少しポイントを記載すると、次のようなものです。

  • 2014年と2015年の2年間の訴訟件数は、202件。判決は125件。若い77件。
  • 原告の勝訴は28件で、勝訴率は全体の14%。
  • 米国の勝訴率は、5~7割。ドイツは、6割前後。(知的財産研究所調べ)
  • 日本は、和解のうち、61件が実質的に原告勝訴の内容。
  • 勝訴判決と実質勝訴の和解を足すと、89件で、44%が特許権者有利。
  • 裁判関係者:勝訴率は低くない。
  • 知財高裁所長:極端に低いとイメージがひとり歩きするのはよくない。
  • 特許訴訟弁護士:それほど低くなく、肌感覚に一致。

コメント

これは、昨日の三宅議員の記事と近い話です。ただ、論点はズレています。昨日の自民党の三宅議員のものは、金額の低さを問題視しています。一方、この裁判所の統計は、勝訴率を問題にしています。

単純に面積で考えるなら、勝訴率も低くて、金額も低いのであれば、特許権者がとれる利益は、海外に比べて、相当低いことになります。

また、和解を含めても良いと思いますが、それなら、知的財産研究所のアメリカ、ドイツも和解を含めるとどうなるのでしょうか?そこも、知り合いポイントです。

 

一般に、裁判をするときは、最後の手段となります。裁判をするまでもない案件は、当事者同士の話合いで解決するのが通常だと思います。特に大企業同士はそうです。ただ、こちらのいうことを全く聞いてくれないときは、裁判となります。ただ、大企業は、特許で裁判を仕掛けるのは非常に慎重にやります。負けた時、経営トップから強烈な叱責があるからです。石橋を叩いて調べて、絶対的に勝つというものしか、裁判をしかけないと思います(当然、受けることはありますが)。

中小企業などは、交渉役の知財渉外担当が育っていないことが多いので、それを弁護士や弁理士に依頼することがあり、そのときは、裁判になります。話し合いでは、埒が明かないと思います。

よって、勝訴率も、大企業、中小企業でも、分けて分析してみる方が良いと思います(当然、海外の勝訴率もです)。ほとんどが、中小企業なのでしょうか。

30年ぐらい前、村林先生の講演を聞いたとき、先生は、自分の代理している案件で、勝つのは半分と言っていました。私は著名な知財弁護士にしては低いのではないかと思ったのですが、村林先生曰く、大阪地裁の事件の半分の代理をしているから低くなると言っておられました。勝つ案件を選んで代理するようなことはしていなかったためだと思います。この話から、何もしなくて、最低5割の勝訴率ではないか思います。5割を切るのはアンチパテントと言われても仕方ないのではないでしょうか。

 

ちなみに、訴訟に多少似ていると思われる商標の異議では、上司から、勝率を75%に置くように言われていました。100%にするというのは、勝てる案件だけを選択し過ぎであり、50%では見境なしに異議を乱発していることになる。間をとって、75%がベストという理屈でした。

プロパテントで、国家を知財で経営するなら、75%あたりの数字が目標になるのではないでしょうか。