Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

シャープ

ハイセンス(海信集団)を提訴

2017年6月10日の日経の夕刊に、シャープが米国カリフォルニア州で、北米のTVの商標をライセンスをしている、ハイセンスを契約違反で提訴したという記事がありました。

www.nikkei.com

  • 北米での液晶テレビについて、5年間の商標使用許諾を中国のハイセンス(海信集団)に与えている
  • 低品質の製品を販売して評判がおとしめられた
  • ハイセンスが品質と値段を下げた製品をシャープブランドで販売している
  • 商標の使用差し止めと1億ドル(110億円)の損害賠償を請求
  • 2017年4月に手紙で契約打ち切りを通告したがその後も販売を続けている

という内容です。

 

コメント

シャープのテレビライセンスがスタートしたのは2016年1月で、シャープへの鴻海の出資が完了したのが2016年8月です。鴻海傘下になってからは、SHARPブランドの復活・活用に方針転換があり、世界中で進めていたブランドライセンスをやめて、商権を取り戻す必要があるという状態だと思います。

ブランドを維持する、強化するという意味では、鴻海の考えが良いのですが、当時の経営判断としては、他に選択肢はなかったのだと思います。方針転換に関しては、法務や商標の担当者のご苦労も容易に想像されます。

 

一般にライセンスビジネスでは、品質管理が重要です。どの会社も子会社にラインセンスしていますが、子会社の品質は通常のグループ内の品質管理の方法でチェックされていると思います。

一方、子会社以外へのライセンスとなると、出荷前審査をするかしないか、定期的な品質チェックをどう行うか、また、品質管理体制の構築も課題です。

 

今回のシャープの北米の事情は不明ですが、契約違反で契約を切らない限り、契約期間の5年間は、ハイセンスに権利がありますので、通常はその終了を待つしかないところです。考えられるのは、この5年間に不良品までいかないまでも、品質の劣った製品が沢山販売されたりすると、5年後に品質問題が多発し、お客様がシャープにクレームをつけてくることが想定され、その対策で忙殺され、ブランド構築どころではないという事態です。

その対策としては、ハイセンスに高い品質の製品を出してもらうか、あるいは、販売を減らしておいてもらい被害を少なくするかということが必要で、今回のシャープの提訴はそのための対策と考えられないこともありません。

 

もう一つの論点の低価格というのは、難しい論点で、品質は契約で縛りやりやすいと思いますが、価格をしばった契約は聞いたことがありません。この点は、ブランドイメージには直結する話なので、どういう契約になっていたのか気になります。全体としてブランドイメージの低下とすることも出来そうですが、議論になりそうです。

高い品質をもとめて、出荷前審査など品質管理を徹底することで、間接的に安くは作れなくなり、低価格も発生しないというのが、通常ですが、今回はどうなんでしょうか?

 

いずれにしても、日本企業は、このような動きは苦手です。契約したら、その契約期間の5年間は、品質チェックや品質クレームをハイセンスにすることはあっても、提訴にまでは踏み切らないように思います。

裁判を手段とするあたり、さすがに鴻海的な感じがします。日本企業も世界で戦うなら、訴訟を経営の手段として活用することにもっとなれるべきですので、訴訟自体は問題はないと思います。他の日本企業にとっても良い勉強になると思います。