Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

産業競争力とデザインを考える研究会

ブランドデザイン保護

2017年7月5日の日経に、経済産業省がデザインで産業競争力を高める総合対策を打ち出すとありました。

そのため、

  • デザイン振興を進める国家戦略を制定する
  •  ブランドの象徴となるデザインを一括で保護するような意匠法の改正などを検討する
  • 「産業競争力とデザインを考える研究会」を開き、2018年3月までに報告書を作成
  • 戦略策定や2019年の法改正
  • 意匠法改正とは別に、店舗デザインを保護対象にできないか議論する

とあります。

www.nikkei.com

元ネタは、経済産業省のWebサイトにあります。アップルやダイソンは、企業理念をブランド・アイデンティティとして、デザインで表現している。プレミアムカーや服飾品も同様。新興国企業もそれにならっているが、日本企業はデザイン意識が低いとあります。

議論のテーマは次のようなものです。

  1. 製品同質化が進む中での製品・サービスの差別化の在り方
  2. デザインと産業競争力の関係
  3. デザイン・アイデンティティの必要性
  4. 我が国のデザイン力、デザインを取り巻く環境の国際比較
  5. 第四次産業革命とデザイン
  6. デザインによる我が国企業の競争力強化に向けた課題
  7. 意匠制度が果たす役割と国際比較
  8. 課題解決のための対応策

www.meti.go.jp

 

コメント 

意匠法や商標法だけの話ではなく、より大きく、ブランド戦略とデザインとの関係を検討するようです。大変良いことだと思います。

どちらかというと、ブランド戦略は、広告や広報(PR)の一環として発展してきているので、経済産業省特許庁よりも、電通博報堂外資系のインターブランドなどのテリトリーです。企業の担当部署も、知財・法務ではない、広報・宣伝・マーケティングであり、経済産業省特許庁も、ブランド戦略を十分に理解されていないと思いますので、研究会を開くことは良いことだと思います。

 

今回、重要なのは、戦略策定の方で、Cool Japanの製品・サービス版のような施策が出てくるものと思います。こちらには期待しています。色々やってみると、中には大ヒットが出てくるように思います。

 

一方、意匠法の改正で、ブランドデザインを保護するのは、どうでしょうか。以下は私見です。

 

意匠法は、実用新案法ほどではないですが、活用が停滞ぎみのようです。もともと、意匠法は、パテントアプローチの方法ですが、関連意匠や部分意匠を入れた段階から、ますます、パテントっぽく制度設計されています。

本当は、無審査の実用新案の代替品を目指したのだとおもいますが、その活用(権利行使)が活発でないので、企業としてもどう使ってよいのか分からず、停滞しているではないでしょうか。

その意味では、権利行使しやすくするのが一番であり、根本的な話になります。

 

意匠制度の課題についての意見なのですが、日本の意匠がダメになったのは、意匠法の初期の大事件だった、ホンダのスーパーカブ意匠権侵害事件で、損害賠償金額が大きすぎて、産業界の反発があり、その対策として、特許庁意匠権を細かく設定しすぎるようになったことが原因と聞いています。

そのために独創的なデザインが出てこなくなったというのであれば、特許庁に圧力をかけた産業界に責任があります。自分で自分の首を絞めたことになります。

 

もう一つの意見ですが、もし、細かく意匠権を設定しても、「利用意匠」の考え方が整理されていれば、問題ないかと思います。はじめは広い意匠権の類似範囲だったのに、だんだん細かく権利が設定されるようになり、いつの間にか、同業他社も含めて、同じような商品が、皆、意匠登録されています。

そして、なぜか、「部品と完成品の関係」をのぞいて、商標的な発想で処理され、意匠登録があれば、即、使えると理解されています。利用意匠の条文があるのに、文言を無視して運用して良いのかという気がします。

 

特許では基本特許と応用特許の区別があるに、意匠は権利になれば、そのまま使えるという商標的発想で処理されています。利用意匠の規定はあるのに、ちゃんと運用されていません。たぶん、この問題を解決しようとすると、意匠を図面のみの制度から、クレーム併用的なものにシフトする必要があると思います。

 

全体に、日本の意匠の運用は、日本企業が欧米企業に比べて弱者だったころの産業政策を継続しているとも言えます。

 

また、今回、日経の記事にあったのですが、「製品デザインに込められたコンセプトの保護」ですが、このようなブランド・イメージやブランド・アイデンティティは、パテントアプローチとはなじみません。どちらかというと商標です。

そうなると、意匠法を、今一度、出所混同の世界に戻すことになります。もともと、意匠では「類似」という商標的な概念を使っていますし。

 

今時点、どちらが良いか、はっきり意見があるわけではないのですが、トレードマークアプローチよりは、意匠はパテントアプローチに残ってほしいように思います。

ブランド・イメージやブランド・アイデンティティの保護は、商標で対応できるように思います。店舗デザインなどは、本来、トレードドレスで商標法の話ですし、BMWのフロントグリルのデザインのKidney(腎臓)デザインも、立体商標の運用の話です。英法系のシリーズ商標の制度を入れる方法もあります。

 

たとえば、ブランドデザインの保護は、BMWのKidneyデザインの保護を念頭に置くと、25年では足りません。著作権の死後50年、70年という数字でも少ないぐらいです。意匠では無理があります。

 

パテントアプローチの意匠制度を、トレードマークアプローチに変更しない状態で、「ブランドデザイン」の保護を接ぎ木し、関連意匠の出願期間の制限なしまでしてしまうと、ダブルパテントの問題が顕在化し、一つの意匠制度に括ることはできないように思います。