Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

IPランドスケープ

知財部門の経営貢献

 少し前ですが、2017年7月17日の日経に「IPランドスケープ」の紹介がありました。私個人は、初めて聞いた言葉です。

www.nikkei.com

定義として、次がありました。

  • 経営陣のニーズをつかむ
  • 特許やマーケティング情報から戦略報告書を作成
  • 経営陣に提案、全社戦略に反映

これに対して、従来の知財部門が実施している特許調査は、自社の製品が他社の特許に抵触していないか調べるためのもので、事業の失敗を防ぐためのものとあります。

www.nikkei.com

こちらの記事に具体的な成功例があります。

  1. ナブテスコ知財部門と技術部門が主導したM&A事例
  2. 三井物産戦略研究所の知的財産室長の山内明さんが、グーグルのAIを使った自動運転が脅威になると予言していた話

そして、企業の知財部が、社内特許事務所であり、研究部門が提案した特許を出願し、特許の量を増やすことが仕事であり、経営にかかわることは期待されていなかったとあります。

最後に、日本では知財部門の位置づけが低いという話があり、例外的に位置づけの高いキヤノンの長澤健一常務執行役員のいつでもトップに進言できる立場にあるという話で締めくくられています。

 

コメント

何のことはない、以前から言っている、知財情報に基づく、知財報告書、知財経営のことのようです。大きな企業でも、同じようなことをやっているのではないでしょうか。ただし、知財部門だけではなく、技術部門と共に、やっているような気がします。

 

さて、このIPランドスケープという言葉ですが、他に出典がないかと検索したら、特許庁知財人材スキル標準(Version2.0)に、知財ポートフォリオマネージメント、オープン&クローズド戦略などと並び、IPランドスケープができることというものがありました。

知財人材スキル標準(version 2.0) | 経済産業省 特許庁

みずほ情報総研の研究報告をベースにしたもののようです。

 

知財ポートフォリオは、特許マップの発展形ですし、オープン&クローズといってもライセンス方法の発展形ですし、IPランドスケープ知財トップ提言で、何も、今、始まったことではないと思います。

ただ、知財部が出願・権利化や、特許事件対応など、MUSTの業務で精いっぱいで、なかなかやろうと思ってもできなかったことだと思います。

新しい言葉で説明し直して、多少なりとも戦略的なことができるようになるなら良いというところでしょうか。そのためには、定義や概念を明確にさだめて、一般のビジネスパーソンにも共通認識となるようすることが欠かせません。

 

知財は、工業系大学の知財学部や知財専門職大学院で研究等がされていますが、これらの学校は、発信力に欠けます。本来、このあたり、経営学系のビジネススクールで研究した方が良い領域であるように思います。

 

海外でIPランドスケープという言葉は、ほとんど使われていないようですが、Patent Landscapeの使用例は割と沢山ありました。両社は同じ意味のようです。

 

Finnegan事務所が、IP Landscapingについての記事を掲載しています。

http://www.finnegan.com/ja/resources/articles/articlesdetail.aspx?news=3ba78275-d12a-4a72-993c-f06839284f54

日経の記事の、GoogleのAIの自動運転技術の予言のような話よりは、特許調査寄りの、企業の知財部で日々発生している実務的な話をしているようです。