東京地裁で販売差止の判決
2017年9月1日の読売新聞のWeb版に、カインズが無印良品の棚と酷似した棚を販売したとして、販売を差し止める判決があったとの記事がありました。
記事によると、次のような内容です。
- 東京地裁が、カインズに、棚の販売差し止めと商品の廃棄を命じる判決
- 「無印良品」を展開する良品計画が、ホームセンター大手のカインズに販売差し止めなどを求めた訴訟
- 自社製品と形状が酷似した棚を販売され、営業上の利益を侵害された
- 「両社の棚の形はほぼ同じで、消費者が商品を混同する恐れがある」(柴田義明裁判長)
- 良品計画は1997年、「ユニットシェルフ」の名称で組み立て式の棚の販売を開始
- 直径6、7ミリの金属棒を2本ずつ四隅に配置したシンプルな構造が特徴
- 2015年までに約114億円を売り上げた
- カインズは13年から問題とされた棚を販売
- 判決は、良品計画の棚について「シンプルですっきりした印象の外観で、同種商品と区別できる顕著な特徴がある」と指摘
- 裁判で、カインズ側は「棚はありふれた形で、他社にも同種商品がある」と主張
- 「納得していない。内容を精査して対応を検討する」(カインズの話)
コメント
知財の判例検索には、まだ掲載されていません。また、カインズは控訴する感じです。
記事の写真を見る限り、デザインは酷似しています。この無印の棚を知りませんでしたが、確かに、4つの脚のデザインが特徴的です。
判決を読んでないので、以下は私が勝手に考えたことです(中途半端で、すみません)。
本件、素直に考えると次のようになります。
- 消費者は無印あるいはカインズで棚を買ったのであって、無印で売っている棚とカインズで売っている棚で、商品の出所を間違えることがない。
- 意匠権や実用新案権の侵害になっているならダメだが、今回は産業財産権がない
- 不正競争防止法のデッドコピー規定違反でもない
- 自由競争として許容される範囲であり、カインズに分があるのではないか?
一方、無印良品の知財管理の立場からすると、次のようになります。
- 意匠を取っておけばよかった
- 当初、人気商品になるとは思っておらず、意匠権を取らずに販売してしまったので、事件が起こったときには、すでに新規性がなく、今更意匠権は取れない
- 一方、デッドコピーは3年の制限があるので使えない
- 不正競争防止法の2条1項1号の混同惹起行為でなんとかいけないか?
判例を見ていないので、もしかすると、今回は、消費者が、カインズの棚は、あの有名な無印の棚を仕入れて販売していると勘違いし、実はカインズが無印とは独ルートで製造販売している別の商品だったという、典型的な混同惹起行為の可能性もあります。
その場合、消費者が商品の主体を混同していますので、通常の混同(狭義の混同)になり、カインズが敗訴するという素直なケースと言えます。
一方、消費者がカインズの棚はカインズの独自商品と認識していたが、両者に何らかの関係があると認識してしまう、広義の混同の状態にあったのかもしれません。
カインズの棚を見た消費者は、その商品の周知性(広く知られている)から、無印良品と何らかの関係がある(意匠権ライセンスやデザイン監修などを受けている)と思うというものです。一般に、無印の棚が、周知を超えて、著名になっているとき、広義の混同があり得ます。
企業の実務家の視点ですが、無印にとって、裁判所が、特に広義の混同を認定してくれるのは、結果として、意匠権がなくても対応できたという良い面がありますが、それにより意匠出願をする必要がないということを誘発する面があります。
無印が、本当の意味でのSPA(製造小売)となるのであれば、このぐらいの売り上げ規模があるのに、意匠出願をしないというのは、企業の知財管理から見れば問題です。
デッドコピーの3年限定を入れた法の趣旨と、意匠出願を奨励する趣旨からは、広義の混同は伝家の宝刀として余程の著名の場合にのみ適用し、この程度のものは、助けないという立場もありえるように思います。
意匠出願しなかったということは、自らがパブリックドメインにしたという考え方です。意匠出願して、不幸にして新規性なしとなった場合も、少なくとも権利取得の意思があったことは認められます。
意匠出願していない人気商品を探して、3年を超えるまで待ち、デッドコピーすることを推奨している訳ではないのですが、商標の場合は、ネーミング使うのに、商標出願しないことは、まずないのに対して、意匠制度の場合は活用しない業界が多いので、こんな感じになるのではないかと思います。