Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

外国商標のTIPS(2)イギリス

英国の相対的拒絶理由の審査

最近、Brexitがあるので、イギリスの商標法が気になっています。

先日、イギリスでは絶対的拒絶理由(識別性)は審査するが、相対的拒絶理由(抵触性)については調査をし、出願人や先行所有者に通知するが出願を拒絶はしない(異議申立や当事者の和解で決着)という制度に移行していることをはじめて知りました。 10年前からのようです。

 

オンダ国際特許事務所のWebサイトに詳しく説明されています。

イギリスの商標制度の改正(審査における相対的拒絶理由に基づく拒絶の廃止)

 

  • 改正は2007年10月1日から
  • 類似する他人の先行商標の存在に基づいて、先行商標権者からの異議申立が成立しない限り、出願を拒絶しない
  • 英国知的財産庁は、英国国内商標、欧州共同体商標(今のEUTM)、英国又は欧州連合を全域として指定する国際登録について類似商標調査は行う
  • 抵触する先行商標は出願人に送付
  • 抵触だけのときは、出願人には、出願を継続、抵触回避のため指定商品役務を減縮、出願取下、の3つの選択肢
  • 出願を継続する場合には、英国知的財産庁は先行商標の所有者に、その出願がいつ商標公報に公告されるかを通知
  • 先行商標の所有者は、異議申立てを行う

EUTM(旧CTM)と同じような手続きです。

オンダ国際事務所のコメントとしては、

  • 英国では登録を取得しても商標使用の公的なお墨付きがないとこになるので、使用開始前にはサーチをしておく
  • 商業ウォッチングサービスを利用し総合的に監視する

などとしています。

詳しくは、同サイトをご覧ください。

 

コメント

2007年10月1日施行の改正です。私が商標業務から離れてブランドマネジメント業務をしていた間の改正です。えっ、あの英国が、抵触性の拒絶をしていなかったの?と驚きました。

 

商標の世界では、審査をする英法系の国が重要であり、英法系の各国は、英国の審査制度にならい、識別性と抵触性の審査をしていまました。それらの国では、今でも当然に抵触性の審査をしているので、ここ半年強、商標の仕事をしていて、英法系の国が抵触性の審査には何回もあたりましたので、まさか、宗主国たるイギリスが抵触性の審査をしていないとは、思っていませんでした。

 

しかし、考えてみれば、イギリスがEUに加盟している限りは、当然、そのような運用になる話ですね。理由は、

  1. イギリスは、EUTM(旧CTM)に入ったため、EUTM登録がイギリスでも権利として有効。EUTMは、相対的拒絶理由は未審査状態で権利になっている(抵触性審査は異議待ちの状態で権利になっている)
  2. 一方、単なる英国出願のみ相対的拒絶理由の審査継続
  3. そのため、同じイギリス内で、相対的拒絶理由が審査済みのものと、未審査のものが商標権として混在
  4. 調整するためには、単なる英国出願も、同じ制度にする

ということですね。

 

EUTM(旧CTM)は、大成功した制度で、現在、170万件の登録があると聞きました。それらの権利が、皆イギリスでも権利となっています。

 

Brexitで、この権利をどう扱うかが問題になっていますが、英国商標法が、もとの状態に戻るか、このまま、抵触性審査は異議待ち審査の状態にするのかは、大きな選択肢だと思います。

 

EUTM(旧CTM)や現在のイギリスの方式だと、審査官のサーチは参考程度になります。結局、異議をするかどうかの、先行権利者の能動的な行動が求められます。

そして、2年程度の間に、amicable settellment(友好的な和解)に着地させるというのが、商標代理人のメイン業務になります。

 

大陸法系の国においても、EUTM(旧CTM)は、影響を与えました。

同じ商標で同じ商品の抵触する権利が沢山あり、古い権利に意味があるという法制度でした。当然、権利の信頼性は低く、ライセンスと訴訟条件程度の位置づけでした。

現行の抵触性の審査は、異議待ち審査で、和解がほとんどとはいえ、抵触性の審査を始めたのであり、権利の信頼性が増しています。

 

商標の世界は、大陸法系の無審査主義国と英法系の審査主義国に分かれているのですが、大本のヨーロッパが一つの制度になったいうことは、波及が大きく、長い目で見ると、全世界その方向に行く可能性もありました。

 

言い換えると、EUTM(旧CTM)の制度は、無審査主義国と審査主義国をつなぐ、大発明だったわけです。ポイントは、異議申立です。(オフィシャルサーチもあります。追加)

 

異議申立の復活は、日本の商標登録制度の見直しの課題だと思いますので、数年かかると思いますが、イギリスの選択は注目しようと思います。

 

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