Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

正露丸、インテル、BMW

音楽的要素のみからなる音商標の登録

2017年9月26日に、特許庁のWebサイトで、音楽的要素のみからなる音商標の登録についてリリースが出ていました。

音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました | 経済産業省 特許庁

 

新しいタイプの商標とは、音、色彩、位置、動き、ホログラムの商標を指しますが、このうちの音商標についての話です。

従来、登録されていた音商標の代表が、久光製薬のTVCMの最後の「ヒ」「サ」「ミ」「ツ」という部分の音商標などですが、これは音楽だけではなく、音楽と言葉(「ヒサミツ」という言葉)のセットになったものでした。

特許庁のリリースによると、

  • 新しいタイプの商標のうち、音楽的要素のみからなる音商標について、初めて登録を認める旨の判断
  • 出願人から登録料が納められた後、商標登録
  • 新しいタイプの商標は、約1,600件の商標出願を受け付け、300件を超える登録
  • 多様なブランド発信手段として、企業のブランド戦略に大きな役割が期待
  • 特許庁は、審査に努め、企業のブランド戦略構築を支援
  • 音楽的要素とは、メロディー、ハーモニー、リズム又はテンポ、音色等

とあります。

 

新しい商標の出願件数と登録件数は、次のようなものです。(2017年9月19日現在)

出願件数(計1594件)は、音(566件)、色彩(509件)、位置(376件)、動き(126件)、ホログラム(17件)

登録件数(計303件)は、音(172件)、色彩(2件)、位置(35件)、動き(83件)、ホログラム(11件)

 

コメント

いままで商標登録が認めらた音商標は、音と言葉がセットになったもので、音の特徴で登録が認められたのか、言葉の特徴で登録が認められたのか、混然一体となっており、実は良く分かりませんでした。

今回の3件は、明確に音(音楽的要素)だけです。特許庁のWebサイトでは、音がMP3で添付してあるので、聞くことができます。

大幸薬品のラッパの音、インテル入ってるの音は、有名ですので、妥当なところだと思います。

www.asahi.com

正露丸のメロディ商標の登録の経緯があります。イベント会場の正露丸トイレなど)

 

BMWのTVCMの後の音、いわゆるジングルといわれているものは、印象的な音ですが、前2者に比べると、それほど有名ではないので、このBMWで登録になるなら、双方沢山登録になるように思います。

 

統計で思ったのは、色彩の商標の登録が2件で止まっていることです。トンボのMONO消しゴムの青・白・黒のストライプと、セブンイレブンのお店のファサードの色だったと思いますが、それ以降、登録がないというのは、どうしたのでしょうか? 

色彩の商標の出願は、509件と多いので、登録件数の少なさが気になります。

nishiny.hatenablog.com

色彩は、異議申立を待っているのかもしれませんね。似ている色彩を、以前から使っていたということが、あるように思います。 

 

日本の商標法は、登録主義国の通例で、使用主義国に比べて、先使用の認定条件が厳しく、先使用側に周知を要求します。よって、周知でない先使用者は使用を止める必要があり、抵触するものが予想される色彩商標の運用に慎重になっているのかと推測しました。

商品「消しゴム」で、トンボのMONOの色彩と同じものはないと思いますが、店舗で、セブンイレブンと同じ色彩の店舗ファサードは、在ってもおかしくありません。というか、セイコーマートセブンイレブンの色彩の違いは?と聞かれても、パッとは説明できません。

 

類似群コードというコンピュータがない時代の旧世紀の遺物で商標権の権利範囲を決めているところ、異議申立で商標権の取消をしないことと、先使用の認定条件が厳しいところなど、同意書を認めないところ、日本の商標法や運用には課題が多いように思います。課題の源は、日本的登録主義に行きつきます。

そもそもの登録主義国のように、訴訟条件として登録を求めるという登録主義であれば無審査になるばずですし、本気で審査するなら市場における商標の使用実体に合わせる努力(使用主義)が必要になります。

日本の登録主義の、役所が権利を設定してあげるので、その範囲で使用をしても良いとするという発想は、お上意識に立脚した時代錯誤のものの見方であるように思います。

 

識別力を商標の要素に入れるとか、ベストライセンス問題も良いですが、法改正を議論する人は、本質的なところを議論してほしいと思います。以前は、英米(特に英国とコモンウェルス)が理想的と思っていましたが、最近は、EUTMもいいなと思うようになってきました。

商標は特許と違って、新規性がないので、国毎に、同じような商標に別権利者が居てもおかしくないのですが、グローバル化した今日、当事者の議論に任せるEUTMは一つの解です。

 

単に、識別力だけ、異議申立だけ、同意書だけを切り取って議論しても、埒があかないので、法律全体、法運用全体を、比較法的に、比較実務検討などをしっかりやって、あるべき法制度を構想すべき時期ではないでしょうか。