モデル就業規則の見直し
2017年11月21日の朝日新聞に、厚生労働省が会社員の副業や兼業をしやすくするために、企業が参考にしている「モデル就業規則」を見直す方針を固めたという記事がありました。
モデル就業規則から、副業や兼業を禁止する項目を削除して、原則として容認することですが、長時間労働是正の動きに逆行しかねないという懸念があるようです。
11月20日の有識者会議では、モデル就業規則の改定案が公表されたようです。
- 「許可なく他の会社等の業務に従事しない」という項目を削除し、
- 「勤務時間外に他の会社等の業務に従事できる」「事前に所定の届け出をする」に差し替え、とあります。
許可制が、届出制になります。
2014年の中小企業庁の調査では、現在副業・兼業を認めている企業は14.7%で、少ない理由は、「本業がおろそかになる」「情報が漏れるリスクがある」という理由のようです。
一方、経団連は長時間労働の是正の重要で副業・兼業の推奨に違和感がある、連合は弱いものを守る視点が必要、と言っているようです。
そのため、厚労省は、ガイドラインも同時に提示し、副業・兼業先の労働時間を従業員に申告させるなどを検討しているようです。
また、厚労省は、テレワークに関してガイドラインを出すようです。休日や深夜はメールの送信を控え、社内システムにアクセスできなくするなどの働きすぎ防止策を企業にもとめるようです。
コメント
最近は、政府の方針もあり、サイボウズ、リクルート、ロート製薬など、大手企業も副業をOKとしてきています。Webデザイナーなど副業に向いていますし、特許の明細書の作成も向いていると思います。最近流行のボランティアのプロボノと、副業・兼業の差は、対価があるかどうか程度です。
一般的に、これまで、副業・兼業が認めらていたのは、①家が農家で休日に農業をすること(兼業農家)、②家に不動産がありアパート・マンション・駐車場を経営すること、③株式等の投資、というものだったと思います。
①はだいぶ時間をとりますが、良い気分転換になるのかもしれません。②はあまり時間をかけずに収入を得ることが可能です。③は得をすることもありますが、損をすることも多いものです。
時折、専門能力を買われて、会社の許可を取って、大学に講師で行っている先輩方がおられましたが、勤務時間内に行っているということで、収入は会社に入金するようにしておられました。こちらは、休日にだいぶ準備をされていたのではないかと推察します。
論文を雑誌に投稿すると、謝礼がありますが、論文執筆に本代やコピー代がかかるので、こちらは個人に入ることが多いのではないでしょうか。
知財協会や弁理士会の委員会活動も、休日に宿題をする場合もありますが、これはお金が発生しないので、副業ではありません。
現在、言われている副業・兼業の積極面は、「リカレント教育」の一つになることで、個人の経験が増え、能力が向上し、労働の質が向上するというものです。例えば、2017年11月15日の日経の経済教室のような考え方です。
そもそも、副業禁止は、憲法の職業選択の自由との関係で、問題のあるものです。そのため、法律には書きにくいので、モデル就業規則に書かれ、それを会社の人事担当者がまるで法律のように、国のモデル就業規則にあるのだからと説明してきたと理解してます。
副業で本業に悪影響があるなら、事後的に、人事考課なり、処分なり、情報漏洩の裁判なりで、対応すべきものです。従来のモデル就業規則は、企業要望の忖度です。本来、オープンであり、その本則にもどすだけだと思います。
副業がオープンになると、企業や事務所に勤務する弁理士は、休日に友人の会社の特許出願・商標出願を手伝うことができ、普段やっていない仕事にタッチするなど、経験を広げることも可能になります。
特許の明細書作成とか、商標の相談とか、副業に向いているタイプの仕事です。自宅から電子出願で特許出願・商標出願をすることも、それほど、難しいことはありません。
特許の相談から、一緒に事業をやろうということになるかもしれません。
弁護士の業務は、相談や契約書作成は可能ですが、裁判所が土日が休みですので、法廷には立てません。
一方、特許出願は、オンラインで、休みはありません。休日をどう考えるかはありますが、本質的には、特許は副業に向いているタイプの仕事だと思います。
機密漏洩ということについては、手伝った会社の機密が個人の頭に入ってくることはあっても、しゃべらなければ、こちらの機密が出ることはありません。
この点、特許庁や弁理士会も、副業をしやすくするというようにルールを変えていく必要がありますし、企業や特許事務所も同じです。調べていないので、なんともいえませんが、もともと、ハードルは、企業や事務所の就業規則だけかもしれません。
面白いニュースとしては、裁判官のアパート経営でNGが出たというケースです。相続した不動産の運用ではなく、積極的に経営されていたようです。5年で50件で兼業許可申請があり、拒否はこの1件のみとありました。裁判官には、廉潔さが求めらるということが理由のようですが、不動産投資はあまり時間がかからないものですので、そこまで厳しくしなくても思います。