Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

欧州司法裁判所 ブランド価値維持の理由で

ネット販売制限に合法判決

2017年12月28日の日経に、欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(最高裁に相当)が、12月6日に、メーカーが一定条件下で、高級ブランド品をアマゾンなどの通販サイトでの販売をすることを制限できるとする判決を出したとの話が、「リーガルの窓」でありました。

www.nikkei.com

最近、アマゾンによるグーグルのAI搭載スピーカーの販売拒否が注目されましたが、今回は、逆にメーカーが販路を制限する話です。大略、次のような内容です。詳しくは日経の記事を見てください。

理由がブランド価値の維持となっている点に注目点です。

  • 欧州では、過去、メーカーが商品の価値を維持するため、代理店などにネット販売や安売り店への転売を禁じるなどの制限をかける「選択的流通」に厳しい判決があった
  • 厳しかった理由は、小売価格の高止まり防止のため
  • メーカーに合理的理由がなければ競争法(日本の独禁法)違反になった
  • そのため、メーカーは自社の実店舗やサイトだけで直販し、消費者の利便性が低下
  • 今回の裁判では、米化粧品大手が、販売代理店に対し、アマゾンなどでの商品販売を禁止。それが競争法違反に当たるかどうかが争点
  • 判決は「高級品のブランド価値を維持するための制限は競争法違反ではない」

ただし、次のような制限がある

  • (1)商品の質や正しい使い方を担保するために商品の性質上必要
  • (2)非差別的であること
  • (3)過分でないこと
  • 「高級感というイメージ」も商品の「質」にあたる

コメント

非常に面白い話だと思いました。本人が作って流通させている真正商品ですので、商標権侵害ではありません。販売制限が競争法違反になるかどうかの議論です。しかし、商標権侵害の並行輸入の議論と似ています。

並行輸入で、市場毎に期待する品質に差がある場、品質のために商品の並行輸入を止めることができるという議論があります。今回も、高級感も「質」の一つというロジックはありますが、結論としては、ブランド価値の維持のために、選択的流通を認めるという話になると思いました。

通常の法律論であれば、品質管理のために選択的流通を認めるとなるところ、品質管理の目的である、次のブランド価値の維持のために選択的流通を認めているが重要なように思います。

並行輸入の議論にも、影響が出てくるのではないでしょうか。

 

さて、経営的には、これが認められるとすると、高級ブランド品メーカーとしては助かると思います。アマゾン・エフェクトを心配しなくて良い領域が、一つできたことにもなります。一方、消費者としては価格競争で値段が下がるという期待が減ります。

 

この点、高級ブランド品を安く買えてうれしいという消費者も多数いると思いますが、反対に、消費者自身そのブランドがいつまでも価値の高いブランドであって欲しいという思いも強いように思した。

 

先日、テレビで「マツコ会議」の銀座の高級時計販売店を番組を見ましたが、数百万円から数千万円する時計は、生産も絞っているので、値崩れがないと言っていました。楽しむことができる財産として時計を買っているようでした。

そもそも、この高級時計は、ネットで買うものではないと思いました。

 

記事には、弁護士の課題提起として、

①高級品の定義

②過分な制限とは

などが指摘されていましたが、確かに、一口に高級品と言っても色々ありますし、過分な制限かどうかも商品毎・国毎に商慣習が違うように思います。

 

商標の価値として、出所表示、品質保証と歴史的に発展してきた商標の保護価値の議論が、ブランドの価値(高級感というイメージ)を保護議論にしているように思いました。