Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

広辞苑の改訂版

台湾とLGBT登録商標

2018年1月12日の日経夕刊に、広辞苑の改訂についての記事があります。

www.nikkei.com

岩波書店広辞苑が、10年ぶりに改訂され、第7版がでました。「ブラック企業」「LGBT」など、約1万項目を追加とあります。そのほか、「がっつり」「上から目線」「パワースポット」「炎上」などが追加されたようです。

 

また、同じ日経の夕刊で、台湾省という記述に対して、台湾が反論しているという記述があります。

www.nikkei.com

改訂にあたっては、台湾が中国の一部ではないとして、修正を要求していたようですが、岩波書店がこれを拒否したとあります。中国がこれで良いとするなど、物議を醸しだしています。

日経には、日中共同声明では、実は、この問題は玉虫色の解決をしており、台湾が中国に帰属するという中国側の立場を「十分に理解し、尊重する」という表現にとどめているとあります。

今回の改訂に際して、台湾の当局から事前に要請があったのを、岩波書店は聞かなったようです。

 

さらに、2018年1月15日の日経電子版には、共同通信の配信で、広辞苑LGBTの記述が間違っていたという話が出ています。

www.nikkei.com

LGBTを「多数派とは異なる性的指向をもつ人々」と説明しているところ、LGBは性的指向に関係し、Tは「トランスジェンダー」で、性的指向は全く関係なく、身体の性と自己認識としての性が一致しないことやその人を指すということで批判があり、岩波書店辞典編集部は、誤りとの意見があることは承知しており、修正するかどうかを含めて社内で対応を検討しているようです。

 

コメント

広辞苑は、人気のある辞書であり、誤りが許されないためでしょうか、多くの人が問題点がないかチェック中のようです。

もし修正する場合、既に買った人にはどうするのか?ネットで修正点を記載しておくのか?何か冊子でも配るのか、一体どうするのでしょうか?

しばらくして、修正などが落ち着いてから買った方が良いのか、今の時代、オンライン辞書の方が良いのか、など思ってしまいました。

 

あまり関係ないのですが、辞書で、思い出したことを書きます。

 

辞書に、商標を普通名称のように紹介されると、普通名称化が促進されるので、それを防止する方法として、ドイツ商標法や欧州共同体商標規則には、辞書に対して補足説明を要求する権利が規定されています。

 

ドイツ 商標法 2 | 経済産業省 特許庁

第16条 出版物における登録商標の複製

  • [1] 辞書,百科事典又はこれらと類似の出版物における登録商標の複製が,当該商標がその登録に係る商品又はサービスについての普通名称であるとの印象を与える場合は,当該商標の所有者は,その商標の複製と共にそれが登録商標である旨の表示を加えることをそれら出版物の発行者に要求することができる。
  • [2] 当該出版物が既に発行されている場合は,かかる要求は,[1]に規定する表示を当該出版物の次版から付すよう求めることに制限されるものとする。
  • [3] 出版物が電子データベースの形で販売される場合又は出版物を含む電子データベースにアクセスが認められる場合は,[1]及び[2]の規定を準用する。

L_2017154EN.01000101.xml

EUTM

Article 12

Reproduction of an EU trade mark in a dictionary

If the reproduction of an EU trade mark in a dictionary, encyclopaedia or similar reference work gives the impression that it constitutes the generic name of the goods or services for which the trade mark is registered, the publisher of the work shall, at the request of the proprietor of the EU trade mark, ensure that the reproduction of the trade mark at the latest in the next edition of the publication is accompanied by an indication that it is a registered trade mark.

広辞苑のような一般的な辞書に普通名称として紹介されてしまう状態になっているというのは、普通名称化もだいぶ進んでいるように思いますが、技術用語辞典のレベルなどは、第三者の登録商標を最先端の技術用語として紹介してしまっている例も多く、意味があると思います。

この条文を法律に入れるのは、辞書業界は嫌がるでしょうが、欧州が採用しているぐらいですので、次回の商標法の大改正時には入れても良い条文と思います。

 

ひと昔前まで、NHKでは、放送に登録商標を使ってはいけなかったので、私も以前の会社に入社したての頃、よくNHKから電話をもらい、ある名称が登録商標かどうか教えてくれと言われたものです。今は、J-Plat Patなどでネットで検索できるので、わざわざメーカーに電話をして聞く必要はないのだと思います。

 

また、特許の明細書でも登録商標を記載することはNGでしたので、技術者対象の知財研修の特許の明細書の書き方では、普通名称と間違えやすい登録商標を紹介して、徹底していました。

 

このようなことは、一件無駄に見えますが、非常に良い知財教育になりますので、特許の明細書の記載も、今のように緩くするのではなく、昔のように厳しくすべきではないでしょうか。

www.jpo.go.jp