Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

詐欺行為(Fraud/フロード)

米国の判例(In re Bose Corp.事件)

2018年2月8日に東京国際フォーラムで開催された日本商標協会30周年記念イベントに参加しました。分科会は色々あったのですが、外国法制度部会を聞きました。

ユアサハラ法律特許事務所の黒田亮弁理士による、米国で商標権を取得、維持する際の詐欺行為(Fraud/フロード)の判例についての解説です。

 

 米国の商標出願では、実際に使用している商品だけにして限定して、使用宣誓しますが、不使用商品について使用宣誓した場合、それが理由で、登録全体が詐欺で無効になるか、不使用商品だけが取り消されるかという話です。少し前の判例ですが、重要ということで紹介があったのだと思います。

 

1.事件の概要(In re Bose Corp.事件、2009年8月31日判決)

事件は、Hexawave社が、”Hesawave”商標を第9類で出願したのに対して、Bose社がBose社所有の"WAVE”商標を根拠に、異議申立をしたというものです。

異議申立の宣誓時に、”WAVE"商標の使用を中止していたにも拘わらず、使用していると宣言した点が、フロードになるかどうかというのが論点です。

Boseは、修理をし、返却輸送しており、このことが、取引上の使用をしていると主張しましが、米国特許商標庁の審判(TTAB、商標の審査官・審判官は弁護士です)は、修理や返却輸送では、十分な使用ではないとして、そのような重要な内容をフロードで宣誓したとして、”WAVE"の商標登録自体を取り消しました。

これに対して、Bose社が、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に提訴したのが、この事件です。

 

2.結論

CAFCは、特許商標庁を欺く意図をもって、故意に誤った、重要な表明を行った場合のみフロードになり、故意を伴わない、誠実な誤解や不注意ならばフロードとはしないとしました。

そして、Bose社の”WAVE”の商標権は、フロードにより登録全体が取り消されるのではなく、使用していない「オーディオテープレコーダー、プレーヤー」だけが取り消されました。

 

3.判例の動向

以前の判例は、商標の登録時や更新をする際のフロードは、故意に誤って重要な表示をしたときだけだったようです。

それが、2003年のTTAB(Medinol v. Neuro Vasx, Inc.事件)で、知っていたか、知っておくべきであったならば、登録全体を取り消すとし、また、欺瞞の意図は主観的意図ではなく、客観的に判断するとなり、フロードを認定て、登録全体を取消しやすくしたようです。

今回のBose社の判例で、特許商標庁を欺く故意が必要であり、また、知っておくべきであったというような厳しい基準もなくなりました。

 

4.まとめ

宣誓書の署名者はすべてを知っておくべきで、過ちがあると、フロードで登録を取り消すべきという立場は、権利をできるだけ実際に使っているものだけに限定する立場です。米国特許商標庁は、その立場のようです。使用主義の貫徹ですが、使用チェックをしている登録簿の信頼性を維持するという気持ちが入っているように思います。

 

一方、故意があるとき以外は、誠実な誤解、不注意、過失、重大な過失などがあっても、欺く意図がないと、フロードでなく、よって、権利全体を取り消すのではなく、実際不使用の部分だけを取り消すというのが、今回の判決です。あまりフロードの主張を認めやすくすると、権利が不安定になるので、故意を要求して、権利の安定性を高める方法です。

 

商標の権利取得や更新には、使用宣誓があります。知財部長などにエンパワメントも可能ですが、代表取締役が署名をしている会社も多いと思います。

その代表取締役が、全ての商標の使用状態を知っておくことは、現実には、無理な場合も多いと思います。

その意味で、Boseの判決は、妥当な判決だと思いました。

 

一方、アメリカは、昨年ぐらいから、登録後の5年ー6年の使用宣誓などのPostーRegistrationの場合に、auditを導入して、チェックを厳しくしています。

審査官の目からすると、登録に記載してある商品・役務で、実際使っていない商標が多すぎるだと思います。特にマドプロや本国登録・本国出願ベースがその傾向のようです。

 

フロードという方法で、不使用商品の権利を制限出来ないので、Auditという方法で、不使用商品の権利を制限することになったということでしょうか。

米国では、欲しい商品だからといって、指定役務を書きすぎるのは、止めておいた方が良いのは変わりません。