Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

味一ねぎ

商標権の行使と独禁法違反

2018年2月14日の朝日新聞に、公正取引委員会大分県農業協同組合(JAおおいた)に対して、独禁法に基づく排除措置命令を出したという記事がありました。

digital.asahi.com

事案は、次のようなものです。

  • 味一ねぎは、大分県北部で生産される小ネギ。JAおおいたが商標権を持つ
  • ブランド化が進められ、年間約1千トンを出荷し、約10億円の売り上げ
  • JAおおいたの組合員の5農家が2012年以降、より高値で売れる農協以外の業者に、ネギの一部を出荷
  • これに対して農協は、5農家が農協に出荷した分についても、味一ねぎのブランド名を使わせなかった
  • この件で、公正取引委員会はJAおおいたに対して、独占禁止法違反(不公正は取引方法)で排除措置命令
  • (商標を使用させないことは)生産したすべてのネギをに農協に出荷するよう強制することになり、農家の自由な取引を妨げたと判断
  • 組合員がJAおおいたに出荷した分にはブランド名を使わせるよう命じた
  • 農協法では、農協が「農業者に事業利用を強制してはならない」と規定
  • 農協による出荷強制を監視するため、公正取引委員会に特別チーム
  • 命令が出るのは全国で2例目

というような内容です。

 

コメント

J-Plat Patがメンテナンス中なので、WIPOのGlobal Brand Databaseを見ると次の情報がありました。

味一ねぎ(商標登録第5725461号)

登録日:平成26年12月12日(2014.12.12)
出願日:平成26年8月6日(2014.8.6)
商標:味一ねぎ
指定商品:31類 ねぎ

 

そして、JA大分のWebサイトによると、大分味一ねぎ生産部会は、部員数59人とありました。少ない部員数だと思います。

http://www.jaoita.net/00000_ja-oita/07000_agri/07200_shun/bk/201006syun01.html

 

本件、農協が商標権を持っているといことで興味を持ちました。

商標権者は、どのようにライセンスするのも、基本的には自由です。権利者である農協には、ライセンスする権利もあれば、ライセンスしない権利もあります。

 

農産物の品種の名称であれば、当該品種なら自由に使えるでしょうが、「味一ねぎ」という名称は販売拡大のための農協の商標ですので、品種とは違って当然です。

 

まず、農協の構成メンバー以外には使わせることはないと思います。

また、多くの農家(この場合は、59人)に使わせるのですから、品質基準やロゴの表現方法などの使用基準もあると思います。品質基準は、農協の専門でしょうし、ロゴについては、ねぎを入れる包装用ビニールは農協指定のものを使うことにしておくと、管理が可能です。

 

記事からはよくわかりませんが、農協以外のルートで販売したものは、味一ねぎの名称を使っていなかったのだと推測しました。

公取は、農協に収めた分まで味一ねぎを使わせなかった点が、問題になっているとあり、確かに、そこまですると制裁になりますので、やり過ぎだと思います。

 

農家には、農協の買取価格への不満があるのだと思われます。

農協も、商標権の取得や広告宣伝や広報に、多額の投資をしていると思いますので回収が必要というのは分かります。

この問題ですが、まだ「味一ねぎ」の商標に、ブランド価値がないのかもしれないと思いました。

 

良く云われるように、「関さば」「関あじ」と「岬(はな)さば」「岬(はま)あじ」は、同じ「さば」や「あじ」であり、水揚げする港の違いだけだそうです。しかし、ブランドの違いで、その商品価値には大きな違いがあります。

「味一ねぎ」の商標がブランドになっていれば、農協の方が買い取り価格が低いということもなくなり、農家は農協を通じて売る方法を選んだように思います。

高く売れない名称(商標)は、ブランドではありません。