Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

かっぱえびせん 著作者人格権確認事件

門前払いだけれども

有名なカルビーかっぱえびせんのCMの、キャッチフレーズの著作者が誰であるかが争われていた事件の判決が出ました。訴えで確認する利益がないということで、結局は、門前払いのようです(平成29年(ワ)第25465号 著作者人格権確認等請求事件)。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/630/087630_hanrei.pdf

 

事案は、かっぱえびせんの「やめられない、とまらない」のキャッチフレーズを考えたのは原告であることの確認を求めた訴訟です。

請求の趣旨は、次のようになっています。

 1 被告の作品(昭和39年にテレビコマーシャルフィルムの企画制作の発注を被告から受けて広告代理店大広放送制作部Aチームが企画制作した作品であるテレビコマーシャル)につき,原告が制作した事実を確認する。
 2 被告は,自社の社内報,ホームページに,広告代理店大広の社員であった原告が「やめられない,とまらない,かっぱえびせん」を考えた本人であったという事実を記載した記事を掲載せよ。
 3 被告は,原告に対し,1億5000万円を支払え。

判決は、

原告が制作した事実の確認を求める部分を却下する。  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

というものです。

 

一番の争点は、原告が、本件CMを制作したかについてです。この点、原告は、

本件CMは,大広の放送制作部に所属していた原告が昭和39年に制作したものである。このことは,大広の元従業員の証言書から明らかである。

としています。これに対して、被告は、単に、

不知。

としているだけです。

 

では、原告の著作権が確認されたかというと、裁判所の判断としては、

 

確認の訴えは,原則として,現在の権利又は法律関係の存在又は不存在の確認を求める限りにおいて許容され,特定の事実の確認を求める訴えは,民訴法134条のような別段の定めがある場合を除き,確認の対象としての適格を欠くものとして,不適法になるものと解される(最高裁昭和29年(オ)第772号同3256年5月2日第三小法廷判決・集民51号1頁,最高裁昭和37年(オ)第6189号同39年3月24日第三小法廷判決・集民72号597頁等参照)。
したがって,本件訴えのうち,原告が本件CMを制作した事実の確認を求める訴えは不適法である。

事実の確認の訴えは認められず、権利の確認でないといけないようです。裁判所は、これに続いて、

なお,事案に鑑み付言するに,仮に,原告が,本件CMを制作した事実ではなく,原告が本件CMにつき著作権ないし著作者人格権を有することの確認を求めたとしても,確認の訴えは,現に,原告の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切である場合に,その確認の利益が認められるところ(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照),前記前提事実(第2,2),証拠(甲18ないし20,23ないし25,19,乙1,102)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,アストロミュージックから許諾を受けて本件キャッチフレーズを使用しているにとどまり,本件CMについて被告が著作権ないし著作者人格権を有するなどとは主張していないから,原告が有する権利又は法律上の地位に存する危険又は不安を除去するために,本件CMの著作権ないし著作者人格権の存否につき被告との間で確認判決を得ることが必要かつ適切であるとは認め難く,結局,確認の利益を欠くものとして不適法というほかない。

としています。

現在、問題のCMの当該作品の著作権者となっているのは、アストロミュージックのようです。訴えるべきはカルビーではなく、アストロミュージックであり、カルビーとの訴訟としては、訴えに必要な利益を欠き不適法というものです。

 

コメント

少し前に、ブログで書いた案件です。 

nishiny.hatenablog.com

裁判の結果としては、カルビー有利の判決で、原告は門前払いされた感じの結論となっています。

本人訴訟のようですので、原告も、弁護士費用をかけてまで争う気持ちもなかったということでしょうか。

 

ネットで検索すると、裁判で被告(カルビー)側の代理人が、「不知」と回答している件に関係する証言が掲載されていました。大広の元社員のメンバーの証言のようです。

dyanai.hatenablog.com

詳細に読んだわけではありませんが、しっかりと整理して、社会に発表していますので、これに記載のような背景があったのだろうと思います。

 

キャッチフレーズやコピーは、一番短い文学作品である俳句に比べても、短く、よって、創作性がないとして著作物性を否定することも可能かもしれませんが、社会的・経済的にには価値のあるものです。

 

法人著作が認められるために、法律上は問題にならないとしても、誰が本当の創作者かということはクリエイターとしては重要ですし、そのようなことが尊重される社会になって欲しいと思います。

 

原告は、訴えの利益を作るためか、名誉毀損について、高額な対価請求をしています。しかし、裁判所は、名誉棄損について、誰も原告を知らないのであるから、カルビーが自社内で考えたと言っても、名誉棄損ではないと判断し、原告の請求に理由がないとしていますが、業界で、事情を知っている人はだいぶいたようですので、本当に名誉棄損にならないのかなとは思いました。

 

原告としては、裁判を提起し、話題になることで、原告が創作者であることを社会に認知することができたので、それで一番の目的は達成しているという現実的な見方はありますし、原告もお金が欲しい訳ではないようですので、裁判所としては落としどころを探って出した判決なのだと思います。