Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標審査の品質管理

品質ポリシーと品質マニュアル

商標協会の国際活動委員会で、商標審査の品質管理が話題になっていました。特許庁が品質管理をしていることは、聞いていましたが、どのようなことをやっているのか知りませんでしたので、特許庁のWebサイトを見てみました。

www.jpo.go.jp

冒頭に次の文章がありました。

特許庁は、企業のグローバルな事業展開を支援し、イノベーションの促進に寄与すべく、日本の審査結果が海外でも通用し海外で迅速に権利化が図れるよう、国際的に信頼される質の高い審査の実現を目指しています。また、適切な審査及び権利付与を通じて、産業の発達に寄与すべきであることは、言うまでもありません。

特許庁の審査に関する品質に関するポリシー」がPDFになっています。平成26年(2014年)からの取り組みのようです。

 

特許、意匠、商標が別々に出ています。強く、広く、役に立つ特許権意匠権)を設定するというところが、商標の場合、ブランドの保護育成と消費生活の円滑化に貢献となっている点は違いますが、基本的には同じような構成です。

商標は、「商標審査に関する品質ポリシー」という1枚ものになっています。

https://www.jpo.go.jp/seido/hinshitsukanri/pdf/hinshitsukanri/pamphlet.pdf

 

このポリシーを受けて、「商標審査の品質管理に関するマニュアル」があります。28ページ程度のマニュアルであり、内容としては、一般的なPDCAサイクルの話と、ユーザー評価を実施すること、品質管理官なる人がいて品質監査もするようです。

http://ttps://www.jpo.go.jp/seido/hinshitsukanri/pdf/shohyo/manual.pdf

 

コメント

●特許の話として、もともと、日本の審査の質は高いので、世界で日本の審査結果を採用してもらいたいということが、話のスタートのようです。

工業所有権の保護に関するパリ条約は、100数十年前のものですが、優先権の制度のスタートは、一つの国の特許が他国で承認されるという議論からスタートしていますし、商標の本国登録制度も同じ発想です。

 

これを達成するには、外国判決の承認・執行のような審査結果の承認が必要になりますが、国家主権との調整が必要になります。あるいは、国際的に審査機関を一元化する方法もありますが、簡単ではありません。

それに至るまでの、第一歩が、この審査に関する品質管理なのだと思いますが、道のりは長そうです。

 

●商標の審査のマニュアルを見ましたが、仕組みとしては、製品の品質管理のシステムを踏襲したもののようです。審査官の判断のバラつきを防止し、ユーザーの利便性を向上するための活動のようです。

特許では、日本の審査はレベルが高いと言えますが、商標は、新規性や進歩性などはなく、識別力の考え方が国によって違いますし、既存の商標権との関係が障害になって、各国の審査の相互承認などは、夢のまた夢という状態です。

よって、商標の審査の品質管理には、特許のような大きな目標がなく、ユーザーフレンドリーであれば良いとなりそうです。

 

●一般に、日本の品質管理は国際的に高い水準なのだと思いますが、それは製品の場合であり、サービスの品質はそれほど高くないと思います。

特許庁の審査というものは、サービス業のようなものですので、やっと4年前にサービス業である特許審査の世界にも品質管理が入ってきたというところでしょうか。

 

もし、商標の審査を行うのが、特許庁の商標課だけではなく、他の企業や団体と競合していたとすると、そのサービスの質は、依頼や処理件数に反映しますので、品質にもっとシビアになると思います。

 

●また、今の商標の審査の品質管理は、最低限の品質確保の話であり、高い品質の商標を作っていこうというものではないことも、いまいち、面白くない理由です。

世界中から憧れをもたれるブランドを育成するとか、地域社会の発展に貢献する商標を創る、守る、育てる、その方法を広く検討して、伝授するというものではありません。

 

商標管理という言葉は多義的ですが、特許庁の言うような法的・事務的な面は、商標管理の最低限の話であり、本来の商標管理という言葉にはブランドマネジメントを含みます。どのようなブランドにしたいのかの方針作成、ブランドを育成するための指標の抽出と経営層へのフィードバック、ロゴの作り方・使い方、ブランドについての社員教育、などは、広義の商標管理の意味に含まれます。

 

審査という限定があるので、ここまでが限度なのかもしれませんが、商標審査の品質管理であっても、欲を言えば、もう少し突っ込んで欲しいと思いました。そうでないと、特許庁の内部の話にしか聞こえません。

 

●世界共通商標制度は、マドプロの先にあるので、全世界の商標担当者の目標とすべきものです。

類似群コードからの離脱し、指定商品で世界を引っ張れるなら、ある程度、特許庁も貢献できることがあるのですが、類似群コードの存在は、欧州に大きく後れを取る原因ではないかと思います。

この点、中国は日本から採用した類似群コードと、国際分類のアルファベティカルリストの整合性を上手くとっており、日本は中国に負けていると思います。

 

まずは、特許庁が意思を持って、上位概念表示(短冊表示)を止めることです。

ここは、商標実務担当者の意見を聞かない方が良いテーマです。