商標・意匠の制度との比較してみる
2018年4月23日の日経に、2018年末にも欧州の単一特許制度が始まる可能性があるという記事がありました。
- 欧州の特許は、各国毎に出願するか、欧州特許庁に出願するか(欧州特許)
- 欧州特許の場合、国は自分で選ぶ
- 国を増やせばコスト増になる。(権利は各国毎なので)侵害裁判は各国毎
- 権利者から非効率との声
- 単一特許は、欧州特許の新たな選択肢。26ヵ国すべてで効力を持つ
- 特許訴訟を一元的に対応する統一特許裁判所(UPC)も設立
- 欧州特許庁長官が、2018年末までに協定の発効に自信
とあります。
コメント
知財の仕事では、商標と意匠しかしたことがありません。
20世紀の末に、以前の会社が欧州で知財会議を開いたときに、EPOを訪問し、審査官の部屋で審査をしているのを見学したことがあるのが、唯一、欧州特許・EPOの記憶です。
受験生のときはPCTは勉強しました。PCTが出願の束であるのに対して、欧州特許は権利の束であるというような説明は聞いた覚えがあります。
権利設定までがEPOの仕事で、設定後の権利行使は、各国毎ということです。
なお、各国での権利行使のためには、翻訳文提出と年金納付が必要なようです。
http://mewburn.com/wp-content/uploads/2017/08/EP-Patents-The-Basics-JP-.pdf
この欧州特許は、Brexitの影響を受けないと研修会で聞きました。EUIPOは、EU商標、EU意匠の管轄機関ですが、これは、EUの組織です。
そのため、英国のEU脱退は、欧州商標・意匠からの脱退を意味しますが、欧州特許は条約で出来たものであり直接EUと関係ないので、英国のEU離脱後も英国は欧州特許のメンバーであり続けます。
記事では、欧州単一特許に焦点を当てていますが、従来から、審査は一元化されているので、指定国が選択制だけだったのが、26ヵ国一括という選択肢ができただけです。内容的には、統一特許裁判所(UPC)の方が、重要なのだと思います。
一方、商標・意匠の方ですが、特に、商標はEUIPOとのやり取りが重要で、また、EUTMの登録取得時の異議申立てや同意書・共存契約書は日常的な業務ですし、税関関係もありますが、侵害となるとピント来ません。
EUTM(CTM)は、制度ができた当初から、単一の権利が実現できています。EU内で、国をまたがる商品・サービスの流通の自由を担保するには、単一の権利が必要です。
欧州連合商標に関する理事会規則によると、侵害訴訟訴訟については、各国は、欧州商標の侵害事件を管轄する欧州商標裁判所を、指定するとあります。
そして、裁判管轄権は、被告の住所地とか、原告の住所地、スペイン(EUIPOの所在地)などとなっています。
(欧州連合商標に関する理事会規則)
https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/ec/rijikai_kisoku.pdf
JETROのペーパーによると、欧州司法裁判所の判断により、共同体商標裁判所(=欧州商標裁判所)による侵害に対する差止の決定は、EU全域において有効になるとあります。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/europe/ip/pdf/20110420.pdf
意匠もほぼ同様の構成のようです(欧州意匠裁判所)。
一元的な権利化で先行していた商標・意匠は、訴訟では、各国毎の欧州商標(意匠)裁判所の判断という構成です。一方、遅れていた特許は、統一特許裁判所ができます。
なぜなのか、考えてみました。
商標の場合、侵害事件は模倣品事件となり、企業同士がガチンコでぶつかる、前日のグッチ対ゲスのようなものは非常に珍しく、通常は登録取得の段階の異議申立や同意書や併存契約の交渉で争いが解決しているので、一元化した裁判所の要望が少ないのかもしれません。
また、商標の場合は、各国毎のローカルな登録制度が健在であり、各国毎の争いも多いと思いますので、統一商標裁判所は必要性が乏しいとも言えます。
さらには、商標の判断は、どの国の裁判所でも、案外、合理的な結論を導いてくれているのかもしれません(ミラノの高裁のように)。
共同体商標・意匠の取得については、多くの文献がありますが、権利行使は文献がないように思います。EUの法制度一般から勉強しないといけないのと、指令や規則が複雑なためではないかと思います。