日本生産性本部会長・価格の上乗せ
2018年4月26日の日経の「私見卓見」に、日本生産性本部会長の茂木友三郎さんのオピニオンが掲載されていました。茂木会長は、キッコーマンの名誉会長・取締役会議議長です。
- 日本の製造業の生産性は米国の7割。サービス業は半分
- 伸びしろはサービス業
- 生産性は付加価値を労働時間や労働人口で割る
- 日本企業は労働時間の削減、従業員の削減という分母を小さくすることに注力
- これは限界があり、付加価値という分子を増やすことが有望
- そのためには、企業が革新的なサービスを生み出すことが重要
- サービス自体は優れている(米国より、宅配便、タクシー、ホテルの質は上)
- 米国に生産性で劣るのは価格戦略。日本ではサービスは無料という意識
- サービスの「おもてなし」を付加価値に上乗せすべき
- 宅配便、理容美容は割安。安くて良いものではなく、適正価格で
- 自らの付加価値の過小評価は改める
というような内容です。
コメント
まったく、仰る通りだと思いました。さすがキッコーマンの名誉会長。日本の代表的経営者のお言葉であると思いました。
革新的サービスの開発と、過当競争を止めることが、説かれています。
革新的サービスであれば、価格決定の自由も、サービス提供者側にあると思いますので、まずは、革新的サービスの開発が重要なんだろうと思いました。
上記のオピニオンでは、革新的サービスの具体的として、高度経済成長期の洗濯機や冷蔵庫のような革新的製品を例に挙げ、それに該当するような革新的サービスの開発が必要とあります。
この革新的サービスは、業界ごとに違うのだと思います。各業界、各社で考えないとしかたないのだと思います。
この点、特許事務所の料金体系は、昔の標準額表を基準にしたものですが、特許出願件数や意匠出願件数は減り(商標だけが先行して回復しているようです)、次のような理由で、値上げができるような状況ではないと思います。
- 社会全体のデフレの影響
- 弁理士増に伴う過当競争(これは新たな訴訟という分野を開拓できなかった、司法、行政、弁理士会等の政策の失敗の面があります)
- 商標の、ネットで出願を依頼を勧誘する事務所の出現(イニシャル費用は安いようです。できない仕事も多いようですが。)
革新的なサービスを作っていくとして、今の特許事務所の外国商標業務では、各国の現地代理人は、どの事務所も、皆同じようなところを使っているので、差別化が難しいところがありますが、企業での経験からは次のようなものかと考えています。
一般に、企業が特許事務所の商標部門に望むのは、①スピードが速い、②処理内容が正確、③企業が知らないことを教えてくれる、④アドバイスが的確で本質をズバリ言い当てている、⑤デッドロックに乗り上げている案件が前に進む、⑥自社では十分できていない商標権の権利管理をやってもらえる、というところでしょうか。
顧客によっては、上記①~⑥で、必要性に差があります。また、特許事務所にとっても、得手不得手があると思います。大家の大先生などは③や④でしょうし、管理に自信のある事務所は②や⑥だと思います。
①のスピードですが、この30年で、要望がだんだん高くなっているように思います。米国調査を10日間ではなく、2日でやってほしいというような要望です。昔は、100%の完成度を求めていましたが、その内、80%でも良いからスピード重視と言われ、今は60%で良いのでもっと早くと言われています。
②の正確性ですが、読み合わせをしたり、ダブルチェックをしたりして、焦らず時間を掛けることで、正確になるのですが、①のスピードの要請と二律背反です。よって、方向性としては、ITやAIで、できるだけミスを防げないかとなります。米国の審査官は丁寧な指定商品の補正指令を出しますが、IT化がないとありえないと思います。ITの導入が正確性の鍵だと思います。
③の企業が知らないことを知っているというのは、専門家としては、古典的な点ですが、やはり重要です。患者がお医者さんに行くのと同じなのですが、患者である企業のレベルが上がっているので、医者に該当する特許事務所の弁理士は、裁判や契約や海外の知見などを総動員しないと患者である企業に見くびられてしまいます。審決・判決を読むことで理屈は理解できますが、やはり実際の事件にあたることが必要です。
④は、大先生に相談に行くと、目から鱗の視点でズバッと切って解説してくれるときがあり、色々なやんでいたけれども、先生のお話しで、考え方の筋道ができたというようなケースです。不競法で大家の先生の事務所に伺い、話を聞いて、凄いと思ったことがありますし、海外案件でも、数回、経験があります。
⑤のデッドロックを打開する力ですが、これは、非常に難しく、自ら動いてみる(兎に角やってみる)ことと、良い外部協力者の力が必要と思います。セカンドオピニオンではないですが、海外案件など、その分野に詳しい人に、現地弁護士を変えると上手くいくことがあります。
⑥の権利管理ですが、昔の商標管理はここに主眼がありました。しかし、専門企業がこのあたりは得意ですし、将来は、WIPOなどの公的データの活用があり得るので、徐々にこちらの需要は少なくなると思います。
この①~⑥以外にも、切り口はあると思います。
どこを切り口にして、サービスを構築するのかは、色々ありますが、高い付加価値のあるサービスが提供できるようにしたいなと思いました。
①②⑥は、事務所全体で考えるものであり、③④⑤は、弁理士個人で考えるものと思います。
革新的なサービスの開発には、事務所の頑張りと、個人が頑張りの、二つの努力が必要なように思います。