Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

改訂された商標審査基準(その1)

親子会社間の同意書

1.はじめに

昨年4月に、虎ノ門ヒルズで開催された、商標協会の研修会(講師は、特許庁商標課の商標審査基準室)に参加したときに、何か書こうと思ったのですが、機会を逃してしまいました。

 

ちょうど、パテントの5月号に、「商標審査基準改訂の解説(商標法4条関連を中心に)が掲載された(まだ、Webサイトにはアップされていません。そのうち、アップされると思います。)ので、復習になると思い読みました。

検討当時の、弁理士会 商標委員会 副委員の、山田朋彦さんと竹原懋さんが書かれたものです。3条関係は別の論文になるとあります。

 

今回の論文の趣旨は、産業構造審議会の商標審査基準WGでの議論やパブリックコメントなど、実務にとって重要なものを紹介することにあるようです。

 

2.判例の整理

今回の審査基準の改正は、大がかりなもので、2年に分けて、平成27年度は3条と4条1項16号を、平成28年度は4条等を検討したようです。

 

昔は、審査基準と審決例を読めば商標実務ができましたが、最近の審査基準は判例を咀嚼して審査基準化しているものが多く、元となった判例もある程度理解していないと審査基準も正しく理解できないようになっています。言い方を変えると、商標実務が、相当難しくなっているとも言えます。

 

判例は、個別事件について、合理的な結論を出すためのものですので、その事例が一般化できないときもあります。

一方、審査基準は一般的なものですので、判例の中でも問題のある判例は議論から除いたり、解釈を限定したりして、論理的な整合性があるように持っていくところに苦労があるようです。「リラ宝塚事件」と「つつみのおひなっこや事件」の特許庁の整理は、これにあたります。これは、またの機会に書こうと思います。

 

3.親子会社間の類似判断

今回の4条の改訂の目玉の一つは、親子会社間の特例のようなものです。

通常、先行する同一・類似範囲の商標権があった場合は、後願の商標は拒絶されますが、これを引用商標権者の承認書面で適用外にするというものです。

 

同意書(コンセント)を認めることは、商標法の改正が必要なので、審査基準の改正ではできません。

しかし、親子関係があれば、親会社の意向で最終的には判断が出ます。そして、名義変更などで、最終的には権利化可能です。また、権利化後に譲渡も可能です。

今回のこのルールは、中間省略を認めただけなのです。当然、特許庁の説明するように、コンセントではありません。

 

審査基準(4条1項11号)

 

13. 出願人と引用商標権者に支配関係がある場合の取扱い
出願人から、出願人と引用商標権者が(1)又は(2)の関係にあることの主張に加え、(3)の証拠の提出があったときは、本号に該当しないものとして取り扱う。
(1) 引用商標権者が出願人の支配下にあること
(2) 出願人が引用商標権者の支配下にあること
(3) 出願に係る商標が登録を受けることについて引用商標権者が了承している旨の証拠

http://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/pdf/syouhyou_kijun/20_4-1-11.pdf

 

(1)+(3の了承の陳述書)or(2)+(3の了承の陳述書)です。

 

親が出願人の場合も、子が出願人の場合も想定されています。

  

 

企業の要請があり、今回、この運用を認めたのだと思いますが、企業の商標管理の立場で、本当に必要な改正だったのだろうかという気はします。

 

企業の商標管理の立場からすると、できるだけ親会社に権利を集中させ、子会社に対して明示あるいは黙示のライセンスをすることで処理するのが基本です。

理由は、多くの会社で使う商標は、より上の会社が持っているのが、自然だからです。上から下の各会社へのライセンスは包括契約でも結べば簡単ですが、下から横並びの会社へのライセンスは簡単ではありません。上に集中しておくと、直接の下だけではなく、下と横並びの会社へのライセンスも簡単です。

 

この審査基準の存在が、子会社が自由に商標出願をしても良いする社会風土を作るのであれば、商標管理としては問題ではないかと思いました。連合商標も無理がありましたが、アサインバックで乱れてきた商標管理を、更に、悪化させる可能性があります。

 

親会社のハウスマークを含む場合は当然ですが、親会社のハウスマークを含まなくても、他のグループ会社や、海外子会社が使用するなら、権利者は親にしておかないと、黙示のライセンスしかできず、きっちりした商標管理はできません。

戦時接収や共産主義国の国有化までは考えなくても、最近は、M&Aで子会社がグループから離れることも多いので、しっかり当該商標のグループ内での位置づけを明確にしておくべきです。

そのためにも、一旦は、親に集中することが望まれます。

費用を子に持ってもらっても、親に集中することは、ライセンスを使えば税務的にも納得でける説明が可能と思います。

 

もしコンセント制度が導入されたとしても、企業の商標管理の立場からすると、コンセントに頼るのではなく、なるべく親に集中することを選択する方が、最終的には良いと思います。その意味で、この規定は、社会をミスリードしないかと心配してしまいます。

 

本当は、コンセントを認めて、その上で、企業グループ内部のことは、企業グループ内のルールで処理すべきと思いますが、現時点、まだ、日本のグループ企業内での、商標の名義の持ち方についての、論文などもあまりなく、日本社会は、商標権の活用方法について、そこまで、考え方が成熟していないのではないかと思います。

 

下記が、特許庁の公表している、この規定で登録されたものです。

www.jpo.go.jp

 

なお、パテントに記載がありますが、兄弟会社の場合は、この規定の適用はありません。商標審査便覧42.111.03には、兄弟会社の他、孫会社、グループ会社、フランチャイザーフランチャイジーの場合には適用されないとあります。