Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

芸能人の芸名(Stage Name)

広瀬香美さんの芸名が話題に

2018年6月1日の週刊女性PRIMEの記事などで、広瀬香美さんが所属事務所から独立することになり、事務所側から芸名使用の中止を求めている件が、話題になってます。

広瀬香美「芸名使用禁止」という“制裁”に何の意味があるのだろうか | 週刊女性PRIME [シュージョプライム] | YOUのココロ刺激する

 

コメント

芸能人の芸名ですが、法律的にどうなるのか気になっていたので、考えてみました。英語で、芸名は、Stage Nameというようです。

 

●まず、先に、通常の芸名以外の氏名を考えます。

有名人にでもなれば、私の氏名に財産的価値も出てきますが、通常人の氏名に財産権的価値はありません。

個人の氏名の場合は、同姓同名も沢山います。山田太郎さんが沢山いても、全く問題なく、氏名と住所で区別しましょうということになります。

 

個人の氏名は、生まれたときに、名前を決めて、出生届を市役所(区役所)に提出し、戸籍簿に載ります。

無戸籍者は、戸籍に載りませんが、氏名がない訳でありません。氏名があれば、氏名の保護はされるはずです。

 

また、決めたのは親としても、親に特段の権利が発生するわけではなく、本人の人格権としての氏名権が発生します(財産権ではありません)。

 

氏名権は日本の法律で明文化されていないようです。氏名権は、(当然のことながら、自分をその名前で名乗ることができる他、)他人から間違えられたら修正を要求できる、という程度の権利のようです。氏名権 - Wikipedia

 

個人の氏名が商号になることもあります。その場合、自動的に世界的も保護されます(パリ条約8条)。Paul SmithYVES SAINT LAURENTは、氏名=商号=商標となりえます。ここまで来ると、芸名以上の価値です。

 

氏名権は、基本的には本人に発生する権利です。

譲渡が可能かどうかは議論がありえます。著作者人格権で、コモンローでは著作者人格権の譲渡や放棄を認めますが、大陸法では一身専属性を重視するという話があり、同じ人格権として、氏名権にも、近い議論があると思います。

 

 

●さて、次に、本題の「芸名」です。

有名ではない個人の氏名には、特に財産的価値はなく、人格権と捉えておけば十分ですが、有名になると財産的価値が出てきます。

 

本名が芸名でもある場合は、人格権である氏名権と財産権が不可分ですし、初めからこの人の名前ですので、議論になることがあまりありません。(能年玲奈さんが、本名から愛称の「のん」と改称したのは特異なケースだと思います。)

 

本名以外の芸名の場合は、人格権と財産権とを分離して考えることが可能になります。

本人の本当の人格権としての本名の氏名は、別途あるので、芸名はあくまで財産権と考えることも可能です。(芸名で本を出す場合など、芸名にも、人格権的な保護も必要になってくると思いますが。)

 

有名人となると芸名には、財産的価値が出てきます。財産権ですので、当該芸能人が権利を持ってもおかしくないですし、所属事務所などが権利を所有してもおかしくはありません。

 

●一般に、自分で考えて、使ってきた芸名は自分のものでしょうし、所属事務所の経営者が考えて、費用をかけて育成した芸名は事務所のものと言われるとそうなのかもしれません。歌舞伎や落語の名跡などは、更に、ローカルルールがありそうです。

 

ここまで整理しても、芸能人の名称である芸名が、これは命名者である所属事務所のものなのか、芸能人本人のものかは、はっきりしません。

どうも、社会的にルールがある訳でもなさそうですし、芸名の権利の所属は、ケース・バイ・ケースでグレーではないかと思います。

 

事務所に入るとき、芸名を決めるときなどに、所属事務所との契約で、芸名の取り扱いを明確に決めておくべきですが、有名になる前であれば、所属事務所有利な契約になってしまいがちです。 

 

●ちなみに、契約に、所属事務所を止めるときは、芸名使用を中止すると記載するのは、どうなるかのでしょうか。

公正取引委員会の報告書に、フリーランスの移籍制限が、優越的地位の利用になり、独禁法違反となるということが議論されており、芸名の使用制限で、芸能活動が制限されると、これに抵触する可能性があるようです。

まだ、ガイドラインにもなっていませんが、この方向だと思います。

 

(平成30年2月15日)「人材と競争政策に関する検討会」報告書について:公正取引委員会

芸能人等の移籍制限や芸名の使用禁止は「優越的地位の濫用」で法律違反になる? │asQmii[解決!アスクミー] JIJICO

広瀬香美さんの事務所「芸名使うな」、独禁法に触れる可能性も…移籍宣言で騒動に - 弁護士ドットコム

 

●最後に、商標登録の面でみると、

そもそも、指定商品・役務に、「芸能人の名称」というものはありません。人そのものは、商品や役務といった商標の対象外です。

例えば、「AKB 48」の商標権(商標登録第4960294号)で、第41類で、次の役務がありましたが、芸名ズバリの役務はありません。

芸能人の養成教育,音楽ライブコンサートの企画・運営又は開催,コンサート会場の提供,舞踊の教授,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画・運営又は開催,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,音響用又は映像用のスタジオの提供,写真の撮影,カメラの貸与,興行場の座席の手配,映像の上映,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,電子計算機端末及び通信を介して行う映画の上映及び演芸・演劇の上演又は音楽の演奏に関する情報の提供,技芸・スポーツ又は知識の教授,美術品の展示,書籍の制作,放送番組の制作における演出,娯楽の提供

 

個人でもグループ名でも、芸名についての商標権取得は、第三者の横取り防止が目的であったり、グッズ販売時やキャラクターライセンス時の根拠となるという話であり、商標権でもって、個人なり団体なりをコントロールするのは難しいのではないかと思います。

 

株式会社ジャニーズ事務所と株式会社ホリプロが、どんな商標権を持っているか見てみましたが、事務所名の商標が基本で、タレントの個人の芸名は商標出願していませんでした。

ただ、ジャニーズは、SMAPなどのグループ名については、有名なところだけ、商標登録しているようです。

米国商標法の解説で良く出てくる、「SLANTS」商標も、グループ名をグループメンバーが権利化したいという話でした。

 

グループ名の芸名は、会社名(商号)や商標に、より近い感じです。

 

今回の広瀬香美さんのケースにような、グループ名ではなく、個人を特定する芸名の場合は、所属事務所も商標権取得まではあまりしていないな感じです。 (今回も契約の問題のようです。)