Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

キリンラーメン

大人の事情とは

2018年5月30日の朝日新聞に、愛知県三河地方の即席ラーメンの「キリンラーメン」の名称が、大人の事情で変更になり、新名称が募集されているという記事がありました。

  • キリンラーメンは、1965年誕生
  • 1998年に生産中止
  • 2003年に復活
  • 2013年の販売実績は500万食
  • 大人の事情で、名称変更(同社のWebサイトによる)
  • お客様に名付けから参加してもらい、一緒に商品を育ててもらいという趣旨

 

同社のWebサイトです。

kirinramen.jp

Webサイトに時系列で紹介されていました。

  • 明治40年小笠原製粉創業
  • 昭和40年(1970年)愛知県西三河地方を中心に「キリンラーメン」を発売
  • 平成10年(1998年)一時生産を休止
  • 平成15年(2003年)地元の方の要望で1回限り、1万食限定で復活、初日で完売口コミが広まる西三河中心に限定生産再開
  • 平成22年(2010年)完全生産再開、全国へ展開

朝日新聞と発売開始日が少し違うようです。

 コメント

J Plat-Patで調べると、即席ラーメンについての「キリン」商標は、登録第4498171号の2で、キリンビールが所有しています。即席ラーメンは、穀物の加工品で読むようです。

このキリンビールの権利については、今回のキリンラーメン小笠原製粉株式会社が、2014年7月24日に不使用取消審判が請求したようですが、特許庁では小笠原食品がが負けて、2016年4月19日に審決取消訴訟になったようです。そして、小笠原製粉が負けたようです。

 

キリンの子会社のキリン協和フーズが、商品「きのこがゆ」について、「KIRIN」や『キリンの健康プロジェクト「キリン プラス-アイ」』の言葉から、使用実績ありとしたもののです。

カタカナの「キリン」権利を、ローマ字の「KIRIN」で同一性ありとしています。ここは、「キリン」に同音異字語な英単語の名詞がないので、同一性ありという審判便覧通りの結論のようです。

 

キリン協和フーズの「かゆ」の件は、判例紹介等で、何回か紹介されたので、見覚えはあります。

 

もう一つの論点は、先使用権(先使用による継続的使用権)です。今回、新聞記事やWebサイトによると、5年間の中断があります。

先使用権は、先使用と、周知性と、継続使用していることが条件です(商標法第32条)。

  • キリンビールの商標は、2000年の出願ですので、先使用です。
  • 愛知県では周知のようです。
  • 継続使用が論点です。放棄と認められる程度の期間の不使用状態とはどのようなものかが論点となりますが、これが、3年なのか(不使用取消の期間)、5年か10年(商標権の存続期間)なのか、法律にはありません。たぶん、3年程度を基準に考えている人が多いと思います。
  • ただ、広告を継続的に行っていたとか、引き合いがあればいつでも出せる状態ににあったとか、主張立証が出来れば、苦しいですが、なんとかなったのかもしれません。

コーポーレトブランドを守りたいキリンビールの立場は分かりますが、世間は一般的に、ご当地ラーメンを支持すると思います。

世間の感覚では、おかゆと即席ラーメンは、別商品ですし、キリンのような辞書にのっているような言葉の商標が社会で併存しても、誰も、不思議ではありません。造語とは違います。

短冊は、世間の常識と、商標の常識の間(類似群・短冊の考え方)に、大きなズレがあるものです。

 

たぶん、キリンビールは損害賠償は出来ず、差止め請求可能なのでしょうが、混同が生じていませんので、差止め請求が争いになれば先使用権がみとめられる可能性もあったのではないかと思います。

権利取得の話とは別に、差止めになると大企業による中小企業いじめと映る面が有り、裁判はどうなるか分からないと思いました。

何か条件が提示されていたら別ですが、単なる自発的な名称変更は、惜しい感じがします。