Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日経の一面に

中国が海外で商標出願急増

2018年6月14日の日経に、中国が海外で商標出願を急増させており、中国政府が補助金を出しているという記事がありました。日経の一面トップです。商標やブランドの記事が日経のトップに来るのは、大変珍しいと思います。

www.nikkei.com

  • 中国が世界で商標出願増。2017年までの3年で7倍。
  • 日本には5倍強の8464件。欧州へは4倍強。米国には8倍。
  • 中国政府は2017年に「商標ブランド戦略を徹底的に実施する」との方針策定
  • 世界的なブランド育成を目標に、知的財産権の出願に補助金
  • 商標登録の補助金は、浙江省では欧米向けは5割。発展途上国では7割補填
  • 過度なテコ入れは安易な出願を招く
  • 米国出願では、インターネットで雑貨を販売する零細事業者からの出願が目立つ
  • 日本の特許庁も中国からの大量出願を警戒
  • 中国国内の商標登録を巡るトラブルの輸出への警戒感
  • 価値が出そうな商標の先取り出願など

という内容です。

 

コメント

日経の図を見るとよくわかりますが、日本も増えているのですが、圧倒的に欧米、特に米国への出願の伸びが著しいようです。

米国は、マドプロ出願や本国登録ベースを除くと、登録時には使用宣誓(使用証拠の提出)が必要ですので、使っていないと登録になりません。それだけ、中国企業が米国に商品を出しているということなのかもしれません。

 

2017年に、中国国内で出願された商標出願が、570万件(日本は、19万件)です。日経の表では、日米欧への中国企業の商標出願が、合計7万件程度ですので、驚く数字ではないのかもしれません(WIPOの資料では、日本から海外への商標出願は2016年で年11万件です)。

中国国内で出願されているボリュームの1%ですし、国の人口の規模からすると驚くべき数字ではないことになります。

 

問題は補助金を出しているという点だと思いますが、日本でも経産省や東京都の施策で、中小企業向けの補助金があります。その補助が徹底しすぎているという点で、各国の特許庁が対応しきれない件数が来ることが懸念されているのでしょうか?何となく漠然とした恐怖があるのだと思います。

 

2017年の「商標ブランド戦略を徹底的に実施するという」という文章は、JETROが翻訳してくれています。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/gov/20170522000-1.pdf

 

「商標ブランド戦略の徹底的な実施による中国ブランド構築の推進に関する工商総局の意見」というタイトルです。

目次には、

一.全体的な考え方

二.商標管理体制改革の推進

三.登録商標の行政保護の着実な強化

四.ブランド育成サービス体系を全面的に構築

五.産業の地域ブランド構築の統括的な推進

六.ブランド育成の国際的な可能性を大いに開拓

七.組織的実施及び保証措置

とあり、詳細は、26項目にまとめています。

 

商標とブランディングを一体に構想しているのが味噌で、権利の話だけではなく、マーケティングやブランド構築を、同時に見ているようです。

日本の役所は、どうしても、自分の仕事である権利の側面を中心に見ているのですが、中国は世界的ブランドの構築という目標があるためか、だいぶ違います。

 

個人的に、気になった言葉を拾うと、

  • 企業商標ブランド活動ガイドラインの策定
  • 著名な世界ブランド価値ランキングでの順位、ランクイン数を高める
  • 3 年連続で使用しない商標登録に対する抹消審査を強化
  • 中国商標ブランド研究院等の科学的な商標ブランド価値評価の体系と標準を構築
  • 「中国商標ブランド価値ランキング」と「中国商標ブランド発展報告」を公布
  • サービス業のブランド育成を促進
  • 商標の国際ルールの制定に参加。中国の商標制度上の発言権と影響力を高める
  • マドリッド協定議定書に基づく国際商標登録件数を着実に高める
  • マスメディアを活用し、商標ブランド戦略実施の気風を醸成
  • 中国商標ブランドオンライン博物館を開設
  • 商標ブランドの理論研究の場の発展を後押しし、商標ブランドの経済成長への寄与率につ いての指標体系の構築を模索

というようなところです。網羅的ですし、日本の行政の方からすると、うらやましい内容ではないでしょうか。

 マドプロの数値目標(3倍)など、やれると思います。

インターブランドランキングで、上位に入る中国企業はまだ少ないようです。2017年のグローバルのランキングでは、Huawei(70位)、Lenovo(100位)程度です。これが、5年後、10年後には、5社、10社となっている状態にしょうとすると、中国政府としても、やるべきことはだいぶあるのだと思います。

ちなみに、日本企業のブランドでは、TOYOTA、Honda、NissanCanonSonyPanasonicの6社だけです。