Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

国際的な知財仲裁機関が東京に

2018年9月に開設

2018年6月28日の日経に、国際的な知財紛争を専門に扱う仲裁機関が、東京で9月に、アジアで初めて開設されるという記事がありました。

www.nikkei.com

  • 1年以内の紛争解決を目指す
  • 東京国際知的財産仲裁センター(東京千代田区、理事長 玉井克哉東大教授)
  • 米国の特許訴訟裁判所の元長官など、国内外の十数名の専門家を仲裁人に
  • 新設機関は政府も後押し。シンガポール、香港に対抗
  • 仲裁判断は、国際条約に加盟する150ヵ国以上で効力

コメント

これに関しては、特許庁知財仲裁ポータルサイトを作っています。相当、後押ししているように思います。

www.jpo.go.jp

この知財仲裁ポータルサイトには、

  • 2018年3月13日に行われた、国際シンポジウムの内容

国際シンポジウム「標準必須特許を巡る紛争解決に向けて」を開催しました | 経済産業省 特許庁

  • 2018年6月28日に行われた、模擬国際仲裁の内容

模擬国際仲裁-5G時代のSEP紛争の早期解決に向けて-

が、掲載されています。

 

宗像長官の冒頭のあいさつを見た(シンポジウムの基調講演を読んだ、模擬裁判の映像を視聴した)ところでは、これは、IoT時代に通信の標準必須特許の紛争解決のためのもののようです。

先日出たガイドライン(日本語では「手引き」、英語では「GUIDE」というようです)は、法的拘束力がないものの、標準必須特許のライセンスの手順を示しており、実際の判断は、新設の東京国際知的財産仲裁センターで、仲裁をしていこうという考えのようです。このガイドラインと仲裁はワンセットで検討されているようです。

 

宗像長官は、シンポジウムで、ガイドラインのことを次のように説明しています。

我が国では、実施者の申し出を受けて特許庁がライセンス条件を決める制度を創設すべきとの 意見もありましたが、内外の裁判例や実務の動向等を踏まえ、標準必須特許のライセンス交渉 に入るに当たって押さえておくべき基礎的な情報を整理することとしました。

国際仲裁裁判所については、次のように説明しています。

国際的な標準必須特許の紛争解決手段として国際仲裁が有効ではないかと考 え、東京でその仲裁手続を行うという選択肢をお示しするため、今年6月29日に国際模擬仲裁を開催したいと考えております。

http://www.jpo.go.jp/shoukai/soshiki/files/photo_gallery2018031501/kouen.pdf

 

確かに、日本の特許庁が、裁定制度のような判定制度のような制度を作ったとしても、それは日本国内での紛争解決にしか役立たず、通信の標準必須特許はクアルコムエリクソンなど海外勢が持っていることや、IoTを活用した製品の市場は全世界であることを考えると、当事間の契約でないと解決はそもそも無理であり、そういう意味では、ADRが望ましいということになります。

特に、今回、CAFCのレーダー判事などが、仲裁人になるようですので、これは海外企業にとっても、仲裁人としてはWelcomeというところでしょうか。

 

昨年、日本知的財産仲裁センターの講演会を聞いたのですが、日本国内では、仲裁は確定判決と同じ効力を有している点は良いのですが、不服申立が不可で実質的に一審制である点で、あまり利用されておらず、どちらかというと、調停人が仲介して、和解契約に導く調停の方が、活用されているという話でした。この点、国際紛争では、契約時に仲裁条項を入れるので、もっと仲裁が活用されていると思いますが、契約に入る前の知財紛争については、やはり調停が重要なのかもしれません。

 

また、仲裁や調停の、前段階にあたりますが、ある技術標準に各社の特許が、標準必須特許に該当するかどうかの判断なども重要です。日本仲裁センターでは、実施許諾団体の委託で、日本知的財産仲裁センターが必須判定をしているようでした。(このような部分を、法律専門家で行うのは無理があり、弁理士など、何某かの受け皿が必要であるように思いました。特許庁審査官の出向者は、日本の裁判所ではOKですが、国家の色が付いているので、どうかなという気はします。)

 

なお、日本仲裁センターの利用は活発ではなく、数が多いという調停で10件/年で、仲裁は極端に少ないということでした。

 

日本に国際的な仲裁機関ができるのは非常に良いことだと思います。今回は、レーダー判事のような顔があって、海外企業が来てくれるのでしょうが、日本人法律家でも、海外企業に指名されるような人が、いずれ出てくるのであれば、大変素晴らしいことだと思いました。

また、そこまで一足飛びに行かないまでも、実施許諾団体からの必須特許認定や、和解の調停など、日本企業が関係するものも多いと思いますので、少し広めに考えると、仲裁機関には、出番があるように思いました。 

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