Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

中国商標法の研修会

鴨王事件とGoogle NEXUS事件とUGG事件

2018年7月3日に日本商標協会の「中国商標制度」についての研修会があり、参加しました。講師は、三枝国際特許事務所の岩井智子弁理士です。午後、3時間の研修会だったのですが、時間を間違えてしまい、一時間遅れで会場に到着しました。

あれ、受付に誰もいない。誰もまだ来ていないのかな?と会場の扉を開けてみると、会場は満席で、既に講義は佳境。何が起こったのか理解にするのに、少し時間がかかってしまいました。

ともあれ、聞きたいので、おずおずと、前方の空いている席に着席しました。

 

さて、講義は、ある程度、条文や判例などを理解している人が聞くと、復習になって良く分かるのでしょうが、内容が豊富で、駆け足だったので、ちょっと難しいかな?という感じです。

 

判例なども豊富に解説されていましたが、中国の代理人は忙しいので、中国の判例は、日本側でも検討しておく必要があり、中国の判例DBを購入したという説明には驚きました。なかなか、そこまではできません。

また、現地の商標公報をチェックして、異議要否の照会をやっているようです。これもなかなかできないことです。さすが、中国商標法の専門家です。

 

普通は、特定国の法律に特化はできず、各国の現地代理人に頼らざるを得ないのですが、インド法や中国法に特化するのも、一つの生きる道ではあると思いました。

 

代理人ではないですが、弁理士が相談にいく弁理士、というのもありだと思いました。町医者と専門医の関係です。

 

前置きが長くなったのですが、面白いと思った(先生が、比較的丁寧に説明されていた)判例が、鴨王事件とGoogle NEXUS事件です。

 

<鴨王事件:2013年判決>

  • 北京のレストランが、「鴨王」を商標出願
  • レストランでは、識別力がないとして、拒絶
  • 上海のレストランが、約1年後に、「鴨王」を商標出願
  • 上海の「鴨王」が出願公告。北京鴨王が異議申立
  • 審決で登録決定。その後、裁判に。
  • 最高人民法院の裁定で、北京鴨王の再審請求を却下
  • 識別力なしの判断でも、第三者が登録を取る可能性があるので、要注意との教訓
  • なお、北京鴨王の救済のため、最高人民法院は、先使用権に言及し、北京地域での継続的使用権が認められた→商標法59条3項(先使用権)の立法へ

Google NEXUS事件:2016年判決>

  • 同意書は、法的に根拠はないが、審判・訴訟では認められている
  • <UGG事件(2012年判決)> 商標権は一種の私権であり、同意書はその処分行為。同意書が消費者の利益を侵害する状況下でのみ否定されると最高人民法院が判断
  • しかし、商品同一・商標同一でも、同意書が認められるかは、議論があった
  • 日本のシマノが「自転車用コンピュータ」にNEXUS商標を権利を保有
  • Googleが「タブレット型コンピュータ」で出願。シマノの権利が引用例
  • シマノは同意書を発行
  • 類似商標では同意書が認められるが、同一商品・同一商標(ダブル アイデンティティ)では認められなかったが、最高人民法院は、この同意書を認めた

これらの事件名だけでも覚えておこうと思います。

 

中国の出願件数は、2017年が年間574.8万件(単区分計上)、2018年は800万件を予想しているようです。日本が、2016年が16.2万件、2017年が19万件(複数区分、国際出願を除く)です。日本の内内出願の平均区分数が、2.8区分(試算しました)の出願のようですので、それをかけると、2016年が45.36万件、2017年が53.2万件となります。

行政裁判も、2016年の数字ですが、北京知財法院の商標行政で5,942件、その二審の北京市高等法院の商標行政が2,941件という数字です。日本の知財高裁の、2016年の審決取消裁判が、279件ですので、10倍程度の数字です。

 

人口比10倍と考えると、出願件数、審決取消件数も同じ、10倍です。

しかし、これだれの数が、処理されているため、判例もどんどん蓄積されると思います。

 

日本法に非常に近い中国商標法で、同意書を上手く運用している点など、日本においても相当参考になる話だと思います。