Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

技術ブランディング(5)

技術をブランド化するための知的財産戦略に関する調査・研究

ネットで検索していると、昨日の上條由紀子さんの標記の報告書がありました。昨日の論文に書いていないこともあるので、それを中心に見てみました。

https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-22530436/22530436seika.pdf

 

特に、面白いと思った点は、以下です。

 

<国内企業アンケート(40社)>

  • 製品においては、製品の機能、性能、スペックを重視している企業が多い
  • しかし、技術をブランド化する取り組みを、すでに行っている会社は、20%に留まる
  • これから取り組む企業が、55%
  • 目的は、顧客や関係者の技術に対する理解・認知度の向上のため。高い技術力を有した会社との企業イメージを向上するため
  • 技術ブランドの決定は、研究開発部門、マーケティング部門、知財部門が関与
  • 技術ブランドの商標登録をしている会社は、75%
  • 技術ブランドは、自社製品のみに使用という企業は、67%

<国内知財部門ヒアリング>

  • 技術のブランド化には、知財ミックスで保護
  • 大学等との共同研究による実験結果や研究者のコメント等を広報に活用

<韓国調査>

  • 技術ブランドの意識は低く、短期の技術が多く、まず、長期間にわたって守るべき技術の開発が必要
  • 韓国法の技術ブランドの保護は、わが国と類似

<米国調査>

  • デュポンでは、ブランドとしての「テフロン」に関して、特許消滅後の商標権を活用したライセンス管理が極めて重要
  • インテルでは、知財部門、研究開発部門、法務部門、マーケティング部門との緊密な連携が重要

 

 コメント

昨日の論文は、3年計画の1年を経過したときのもので、この科研費の報告書は、3年を超えた段階でまとめられたもののようです。科研費をもらうと、このように、ネットに掲載されるのですね。

 

●アンケートに注目しました。

アンケートに答えた40社が、何を技術ブランドとして認識して、商標登録をしたりして、管理しているのかは、この報告書からは分かりません。

 

さて、技術ブランドといっても、自社だけが使用しているものが、67%ということです。反対にいうと、他社も使用しているものが、33%、すなわち、三分の一あります。

 

他社に使用してもらっているものが、成分ブランドとしての技術ブランドとしての、ある意味本来の姿ですが、三分の一あるということは、思ったよりはあるというか、ある程度あるというように思っても良いのだと思います。

 

ただ、材料の名称系の技術ブランドの場合は、自社は材料の名称として使用しますが、その材料を購入した顧客は、「●●材料使用」という形式で掲載しますので、これも他社による使用となります。

 

少し、理解しにくいのが、技術ブランドの商標登録は、75%の会社が行っているのに対して、技術のブランド化についての取り組みをしている会社は、20%というくだりです。

 

技術部門からは、新しい技術の名称の出願依頼が来るので、関係ありそうなところに商標権は取得するが、そこまでしかできておらず、どの技術に、どのような名前をつけて、どのようにPR(広報)して、育成し、広げていくのか、という技術ブランド戦略を体系的に行っている会社は、少ないということなのだと理解しました。

 

技術ブランディングは、法律がすっぽりと、抜け落ちている領域であり、検討しがいのある、未開の分野であることは確かなようです。

 

●後は、デュポンのヒアリングが重要そうです。はじめら、特許商標契約ではなく、ノウハウ商標契約にすることが、スキームの長持ちのポイントだと思います。

特許部門が中心になると、どうしても特許契約としたくなるのですが、特許ではなく、ノウハウ、商標の契約をすることが重要です。

ここは、日本企業の特許部門が、自分を出さずに、会社全体を見通せるかになります。

知財の収益構造が、知財部門の収入になるとしている会社でも、特許・商標とノウハウでは、事業場と知財部門の取り分に差を設けていることもあるかもしれませんが、対外のあるべきスキームを検討してから、社内のことを考える必要があると思います。