Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

オープン&クローズ戦略

日経の連載

2018年7月25日~8月7日まで、10回にわたり、日経のやさしい経済学で連絡されていた、筑波大学の立本博文教授のコラムを、読みました。勉強になりました。

www.nikkei.com

から、

www.nikkei.com

までです。

「オープン&クローズ戦略」とは、

企業が「製品やサービスを、オープンな領域とクローズな領域の両方で構成し、オープンな領域は他社と技術情報を共有しながら製品の普及を目指し、クローズな領域は技術情報を秘匿しながら価値獲得を目指す」戦略

とあります。 

オープン戦略は、 

オープン戦略には技術情報を公開して産業で共有したり、特許を無料で使用許諾するなどの手法があります。目的は、製品普及のために他社を刺激して参入やイノベーションを誘発し、市場を拡大すること

クローズ戦略は、

製品の中に自社しか提供できない部分をつくり、その部分に製品の付加価値を集中させ、付加価値の獲得を狙う戦略です。クローズ戦略には、技術情報の秘匿化、特許による独占、周辺技術の統合による囲い込み、など

とします。

例として、インテルがパソコンの設計情報をオープンにして、CPUはクローズにしたことが紹介されています。知財による独占排他だけでは、ビジネスの拡大につながらず、自社単独では力不足なので、特に周辺部分をオープンにして、参加者を募り、自分は一番得意なところでしっかり儲ける、そのとき、特許なり、ノウハウなりを活用する戦略です。

 

一つの製品が複数のモジュールに分けることができる場合に、オープン戦略を適用する部分と、クローズ戦略を適用する部分に分けられるようです。

 

オープン標準化と従来の標準化は、別ものとして、説明があります。従来の標準化が単純に自社製品の利用拡大にあるところ、オープン&クローズ戦略では、オープン領域とクローズ領域の間に互換規格を設け、オープン領域の拡大がクローズ領域の拡大に結び付けるとします。

 

クローズ領域は、秘密保持が基本ですが、特許化も有効です。また、特許化を選択すると、特許ライセンス業務が生じます。

出願する特許の範囲を決めることも必要です。権利侵害されそうな範囲は出願し、権利侵害されても立証が困難な範囲は特許化せずに機密情報として管理する

などのシナリオが重要になるとあります。

 

多様なプレーヤーが関係することで一つの業態が成り立つというエコシステムでは、技術情報、産業ビジョンなどが、オープンな基盤に上にあります。パソコン、デジタル家電、ネット上のサービスなど、デジタル技術を使う製品・サービスでは、インターフェースを柔軟に設計できるので、オープン標準になりやすいようです。

 

これからのIoTエコシステムの時代、

末端のIoTデバイス(エッジ)、エッジ間協調を行うフォグ、データを集中処理するクラウドによって構成されます。

バイス間の互換性を保ち、データをシームレスに連結できるように、オープン標準の開発が活発に行われています。 

とあります。

クラウド上のサービスが強くなる可能性や、各国毎の標準・規制に対応する重要性、グーグルやアマゾンなどのテックジャイアントのデータが重要になる可能性を指摘しています。

 

コメント

だいぶ前から、オープン&クローズ戦略と言われているので、特許の仕事をしている方なら、良く知っておられる部分なのかなと思います。

 

しかし、商標やブランドマネジメントではあまり考えなかった部分です。最近、技術ブランディングを調べているので、何か参考になることはないかと思って読みました。

 

感想としては、技術ブランディングは、オープン標準化ではなく、従来の標準化に近いものではないのかなぁという感想です。

技術ブランドは、通常は最終消費者に向けて(場合によっては製品の製造業者に向けて)、当該技術が使われていることを主張するものであり、オープン&クローズ戦略とは、直接は関係はないという感じです。

 

オープン標準化でも、インターフェイスや標準規格には、何某かの商標・ブランドが出てくることはあると思いますが、特に、オープン&クローズ戦略というところまで考えずに、その商標が出てきたところで考えれば、事足りるという感想を持ちました。

 

まったく、傍論なのですが、先日、弁理士会からの送付物の中に、特許庁が作成した「知財を使った企業連携4つのポイント」という冊子が入っていました。池井戸潤さんの「陸王」をモデルに、企業連携のポイントを説明をした冊子です。

 

特許庁が、秘密情報の管理、秘密保持契約、共同開発契約、ライセンス契約の冊子を作ること自体、非常に良いことだと思います。

企業でも、法務の仕事や、知財の仕事かはっきりしないところがあったのですが、日本企業では、このあたりは、知財部の仕事とした方が良いのではないかと思います。

経産省ではなく、特許庁が、このあたりの冊子を出すと、これは、知財部の仕事になるように思います。

 

しかし、この中で、技術のオープン・クローズ戦略の定義として、特許化=オープン、ノウハウ=クローズと単純に説明されていました。

 

この点、立本先生の定義と違うなと思いました。他の経産省特許庁の資料を見ても、立本先生と同じ説明で、特許で独占排他権の部分は、クローズ戦略となっています(ちなみに、同じ特許でも、無償開放や低額での非差別的ライセンスは、オープン戦略でです)。整理の仕方は色々あるのでしょうが、冊子は、ちょっと単純化しすぎているようです。