言葉の多義性と射程
最近、「ブランド毀損」という言葉を新聞記事などでもよく見ます。
例えば、Google検索で、「ブランド毀損」と入れて、ニュースのタブを選択すると、ざっとですが、次のようなものが出てきました。
- グーグルの情報流出(日経2018年10月10日)
- スバルの完成品検査の不正(日経2018年9月28日)
- マイクロアドがブランド毀損リスクに対応可能なドメインリスト(2018年10月3日)
- テスラ、ブランド毀損も 株式非公開化 司法省の調査(2018年9月19日)
- 位置情報サービス ブランド毀損リスク回避
- ブランドセーフティでブランドイメージ毀損を。。。
- デジタル広告の運用でブランドリスク回避
- C・ロナウド 婦女暴行疑惑 スポンサー契約会社が懸念
- ユニリーバ ブランド毀損を懸念 SNS広告中止検討
- 阿波踊り 市長の間違った判断でブランド毀損
品質問題、企業の不祥事、使用しているタレントの不祥事、TOPの判断ミス、といったところが、ブランド毀損という言葉なのかと思っていたら、
最近は、赤字で書いたWeb広告、SNS広告に関して、ブランド毀損が語られることが多いようです。
WebサイトやSNSでは、自社で出稿先を選ぶ「純広告」が減り、「運用型広告」が一般的になっているようです。その結果、自社のポリシーに反した内容の記事や、ヘイトスピーチのような反社会的なコンテンツが載っているサイトに広告が表示されてしまうことがあるようです。
ただ、この意味で、ブランド毀損という言葉が語られると、ブランド毀損という言葉の範囲を広げ過ぎで、少し?だなと思います。
Web広告業界特有の問題ですので、ブランド毀損という言葉ではなく、ブランドセーフティなど別の用語を当てる方が、良いように思います。
さて、2006年、2007年と少し古いのですが、一般財団法人リスクマネジメント協会のサイトに、次の論文があります。
- 「ブランドリスクと業界構造 不祥事・事故の風評が株価へ及ぼす影響についての考察」東京企業リスク研究会 ブランド風評リスクグループ 長谷川和人 鈴木信之 久松康太郎
- 「ブランドリスクと業界構造Ⅱ 業界構造はブランドリスクに影響するか?」東京企業リスク研究会 ブランド・風評リスクグループ 長谷川和人、鈴木信之、久松康太郎、西村文伸
https://www.arm.or.jp/pdf/resource/ronbun/2006/2006-17-brand.pdf
https://www.arm.or.jp/pdf/resource/ronbun/2007/today_vol41_16_brand.pdf
リスクマネジメントの観点で、まとめてあるものですが、2000年から2006年までの事例が一覧になっています。これによると、
- 金融関係では、違法融資、注意書き未記載、法令順守不備、杜撰な営業、強引な取り立て、取引の強要
- 自動車では、試験漏洩、セクハラ、リコール隠し、法令違反、品質問題(死傷事故)、リコール
- 食品では、食中毒、牛肉偽装
- 鉄道では、総会屋、轢死事故、脱線事故
- 電気機器では、リチウムイオンのリコール
- 電力では、原発事故
- タイヤでは、回収、火災
- 重電では、設計瑕疵、談合
- 造船では、火災
- 製鉄では、爆発
- シャッターでは、回転ドア事故
- 流通では、火災時の陳列
- ネット企業では、証券取引法違反
とこんな例が出ています。
このあと、東日本大震災があり、TwitterやFacebookやLINEが一般的になっていますので、飲食店でアルバイト従業員が不適切投稿をしたような事例が増えていると思います。
この辺りまでは、ブランド毀損という言葉で引き受けて良さそうです。
そして、最近の流行りが、冒頭のWeb広告の話であり、これは除外した方が良さそうです。
論文にあるブランドリスクは、業界ごとに特性はあるようですが、多岐に亘ります。
また、不適切投稿などは、どの会社にも起こり得ることですし、企業が隠蔽した不祥事をオープンにするものには、社会的には許容されるものがありそうです。
ブランド毀損のマネジメントは、リスクマネジメントの話であり、現状では、マイナス評価のマスコミ報道が、ほぼブランド毀損と考えらていると見て良いのではないでしょうか。