Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

マリカーの判決

東京地裁の判決(不競法事件)

マリカーの事件についての、東京地裁の判決が、裁判所のWebサイトに掲載されていると聞き、さっと読みました。

判決日は、平成30年9月27日。平成29年(ワ)6293 不正競争行為差止等請求事件となっています。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/072/088072_hanrei.pdf

 

●以前、新聞で判決の記事を見た時は、著作権侵害のような書きっぷりだったのですが、東京地裁の判断は、不競法事件であり、著作権侵害とはしていません。

 

また、被告の会社が、すでに社名を株式会社マリカーから、株式会社MARIモビリティ開発に変更しているので、商号の抹消の請求は対象がなくなり、この点は、判断されていません。

 

●被告は、「マリカー」「MariCar」「MARICAR」「maricar」という周知著名な標章を、営業で使用することが禁止され、カートや施設や広告で、これらの言葉を抹消する必要があります。

問題のマリオなどのキャラクターのコスチュームついては、これも標章として、営業上の施設や活動で使用してはならないと判示しています。

その他、動画データの廃棄があり、また、ドメインネームの使用禁止があるのですが、ドメインネームは、外国語サイトは使用可能とあります。

 

著作権侵害は、原告の主張が十分でないとして、また、不正競争部分で、目的が達成されているとして、判断していません。

 

いろいろ、判らないことがあるので、事案を良く知っている方から、内容を聞きたいところです。

 

任天堂は、不競法部分にいては、

①社名変更(これは被告が自主的にやりました)、

②「マリカー」という言葉の使用の差止、

③マリオ等のキャラクターの営業活動での使用差止(コスチュームの貸与行為も含むとしています)を勝ち取っています。

 

そして、裁判所は、不競法で、任天堂の目的が達成されていることもあり、著作権侵害の判断には立ち入っていません。

 

当然ですが、個人が勝手に別のところから、マリオ等のコスチュームを購入したり、レンタルして来て、それを着用してカートに乗ることは、言及がないので、認めらます。

 

●被告が「マリカー」の商標権を有しており、そのため「マリカー」の使用は、商標権の行使であり、不正競争にはあたらないという主張については、権利濫用として、一蹴しています。ここは、裁判所らしい判断です。

 

●面白いというか、変わっていいるなと思ったのは、「マリカー」の周知性を、日本語を理解する人には商品表示等として周知であり、日本語を解さない人=外国人には周知でないとし、その上で、Webサイトやチラシについて、日本語では差止を認めて、英語では差止を認めないとしている点です。

 

アニメファン、漫画ファンは、日本語もできる日本通が多く、国内と海外を区別できないのではないかと思いますが、ゲームファンは、アニメファン、漫画ファンとは違うということなのでしょうか?

日本に住んでいて、日本の文化も、英語も双方理解する人(当然、日本人、外国人)が、数百万人~以上いると考えると、言語で割りきるのは、今の日本で考えると、疑問です。

 

20年前のWebの商標権侵害が議論され始めた時期では、英語版サイトは日本国民を対象にしていないという議論がありましたが、当時と今では、日本における英語の使用者数や、理解状況が違うような気がします。

任天堂の証拠もなく、被告も主に外国人相手とは言え、外国人には、「マリカー」が知られていないので、外国人にとっては、周知性がないという判断は、線引きとして、無理があるように思います。

 

●外国語サイト向けのドメインネームや、Webサイトやチラシが認めれることになり、外国人の顧客が多い被告としては、営業的にはあまり、影響がない判決のような気がします。

 

●ポイントは、コスチュームのレンタルが禁止されている点だと思います。

従来の被告の行為全体の中では、不競法違反になりえますが、もし、仮に、カートと関係なかった場合、例えば、服装のレンタルショップが、コスチュームのレンタルをすること自体は、不競法的には、誰がやっても問題ない行為と考らると思います。(任天堂が、これを止めたいなら、著作権の判断に立ち入る必要がでてきますが、コスプレ文化の否定につながるので、難しい主張です。)

 

●今後の流れとしては、社名も変わり、営業表示としてキャラクターを使用しないという状態になりますので、その前提で、自らコスチュームの貸与をせず、コスチューム御者の斡旋・業者の紹介だけをした場合、これが不正競争になるかどうかは微妙な感じもします。特に、スパイダーマンバットマン、ディズニーキャラクターの貸与もすると、単なるコスプレのコスチュームの貸与となり、マリオカートとの関係性が薄まります。

 

●なお、被告のMARIモビリティ開発は、原告の請求が一部認められたことを不服として、知財高裁に控訴したとあります。

http://marimobility.com/20180930.pdf

 

 

 外国人に人気ということで、裁判所が外国人向けに逃げ道を作ってくれたので、被告は控訴せず、他の任天堂以外のキャラクターのコスチューム貸与の路線を取る方が、得だったのではないかという気がしますが。。。

被告のことを考えると、株式会社MARIモビリティという微妙な名前(「MARI」のことです)もやめた方が、得策ではあります。十分、先行者利益を得られる立場にいるように思います。株式会社TOKYOモビリティなどでも十分です。