Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

商標管理(日本生産性本部)(その5)

Ⅴ 企業における商標管理

第5章は、事例のオンパレードです。

各社のマニュアル、ガイドライン、契約、タグ、組織構成まで、詳細に説明されています。

この本の、もっとも価値があるところでしょうか。

 

商標の選定で、ネーミングの一般論のようなことが述べられています。

面白かったのは、アメリカには「人のものまねをしない」という精神があるという説明です。基本的にはそうなんだと思います。

商標の選定のはじめは、研究所や広告部門からというのも理解できます。

商標委員会を組織して、そこで検討する会社も複数紹介されています。

 

ユニークなのは、医薬品などでは、業界の商標登録制度があるということです。先使用主義で調査が大変なので、業界で登録して、異議を待つという方式のようです。今でもあるのか不明ですが、当時は、ランナム法ができてまだ日が浅いので、このようなものがあったのかと思いました。

化学の業界団体では、出願速報を出しているとあります。

 

調査会社もできていますし、商標のロゴのデザイン会社の紹介もあります。

 

使用主義の国ですので、使用証拠が商標部門に報告があるようにしないといけないのと、そもそも、効果的に商標を使用することを促進するために、どの会社も商標のガイドラン、マニュアルを作成しています。

このあたりが適正使用管理の核だと思います。

 

各社のマニュアルで、商標を形容詞で使えという会社と、形容詞として使わないという会社があり、意味が理解できません。

通名称化との関係があるのだと思いますが、ここは、時間をかけて分析して見ないと分かりません。

日経新聞の本に紹介があったコカ・コーラの普通名称化防止の冊子の紹介がありました。

 

使用許諾にも言及があり、サンキストの事例、織物の防縮加工の事例、メラミン樹脂食器の事例があります。

サンキストは、コカ・コーラと同様のボトリング事業をしているようで、その契約条項や、品質基準書、ロゴなどの説明があります。ここまで、開示してい良いのかという内容です。

樹脂加工やメラニン樹脂の事例は、技術ブランディングのテフロンと同じようなものです。進んでるなぁというのが、感想です。

 

商標管理部門は、法務部にあるという会社と、特許部にあるという会社があります。特許部門があると、そこに一緒にするのが自然なのだと思います。

 

ダイリューションは、なかなか認めらないという記述があり、最後に、レモンの表面にSunkist商標を印刷する発明の紹介があり、侵害排除のために技術的な面も進めているとうことで締めくくられています。

 

コメント

ざっと内容を概観しましたが、本当は各社のガイドライン、マニュアル、契約書や品質基準、タグのデザインなどの中に、商標管理のエッセンスが詰まっているのだと思います。

ただ、その分析までは、この本では出来ていません。単に紹介しているだけです。

 

Trademark のガイドライン、マニュアルですが、いわゆるブランドロゴのガイドラインとは、また違います。約物の用法には近いのですが、商標面から見ているようです。

今でも、アメリカの会社は、このような商標のガイドラインを出しているのでしょうか?この点は、ちゃんと確認してみる必要があると思いました。

INTAの、商標の使用のパンフレットを見ていると過去の議論になってしまった感がしています。

ちなみに、日本で、Trademarkのガイドラインをみたことがあるのは、日本ビクターのVHSのガイドラインぐらいです。

 

これはこれで、一つの学問分野になる感じです。広告関係の理論と、普通名称化防止や商標の使用(同一性など)に関する法的議論が影響しあう学際的な分野でもあります。

 

通名称化ですが、1946のランナム法の制定と、本の出た1960年の間には、14年しかありません。ランナム法以前は、コモンローの保護だけを求めて、登録しなかった会社もあるとあります。普通名称化は、コモンローに頼るときに生じやすいのではないかと思いました。

またⓇの商標登録表示は、アメリカでは非常に励行されていますが、これは、(Ⓒの著作権表示の方式主義の流れでもあるように思っていましたが、)ランナム法が整備さて、商標登録が一般的になる過程で、皆が喜んで商標登録を取得していた時代の空気感のようなものが背景にあるような気がしました。

 

企業における商標管理というタイトルの章ですが、「良い商標の選定」、「適正使用管理」と「ライセンス」が、その内容です。

調査や出願、更新管理などは、ほとんど言及がありません。

これは、今の日本企業の実態とだいぶ違います。

現在のアメリカで、もし、同じような使節団を派遣して、どういうものになるのだろうと思いました。

 

当然、当時のアメリカでも、日常的には、調査や出願、更新はやっているはずです。こちらからの質問が、ライセンスや適正使用管理にフォーカスしていたので、このような答えが返ってきただけかもしれませんが、日経新聞の本も同じ構成ですので、そうとは言えません。

当時のアメリカの商標業界の関心事だったのだと思います。