Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

パテントの商標特集

工藤先生の判例解説(3)

工藤先生の判例解説の3回目です。商標の類否と商品の類否の部分で、商標登録や侵害実務の中心的な部分です。

間違えて理解しているかもしれませんので、是非、ご自身で読んでみて、吟味してください。

 

氷山印事件、橘正宗事件を中心に判決を紹介しています。

とだ、全体に旧法の判断である氷山印事件判決を検討している内容です。

 

先生は氷山印事件の、

  • 商標の類似は、同一又は類似の商品に使用する場合に想定する
  • 商品の類似は、同一又は類似の商標に使用する場合を想定する

としてしまうのではなく、

 

商標の類似は、4条1項1号(国旗と同一又は類似)、19号(国内外の周知商標と同一又は類似の商標を不正競争目的で使用)などでは、商品との関係を問わずに、商標の類似を議論しているとしています。

 

また、商品の類似は、氷山印事件のいう、使用された場合の「具体的な取引の実情」ではなく、保土ヶ谷化学社標事件のいう「その指定商品全般についての一般的、恒常的なそれを指す」に軍配を上げています。

 

これは、審査審判が、職権主義で、使用証拠を求めずに登録をする商標法に合致する。商標審査基準も、「指定商品または指定役務の一般的、恒常的な取引の実情」と明記している(4条1項11号1、(1))とします。

 

37条1号の侵害規定は、現行法(昭和34年法)で追加されたものであるが、取引の実情の判断は、登録主義、職権審査主義の中の行政処分についてのもので、将来の使用についての事前調整には向かないとし、

氷山印事件判決は、侵害時の判断に向いているともいえるが、そもそもが、旧法の登録時の判断についての条文についての判断であり、侵害時に適用するのもどうかと思うとされています。

 

コメント

議論は、氷山印事件の射程範囲についてのもので、できるだけ、限定的に解釈すべきという主張と理解しました。

  • 商標の類似は、商品と離れて考える(※明示的にそこまで言っておられませんが、そう解釈しました。)
  • 商品の類似は、「指定商品または指定役務の一般的、恒常的な取引の実情」とすべきというものです。
  • また、登録主義、職権審査主義という条件(制約)が、あまり具体的な実情を考慮に入れるのは無理がある。(※そこは、欧州のように相対的審査を無審査にすれば良いような気もします。あるいは、スバリ同一以外なら何でも通して、ディスカバリーまでして、当事者に徹底的に争わせる異議を待つ、アメリカ方式でも良いような気がします。)
  • さらに、大正10年法と現行法の違いを指摘し、氷山印事件の判断は、登録時の判断に限定されているのではないかとしています。(※ここは、勉強になりました。)

 

確かに、限られた審査官で、当事者の意見を聞くでもなく(異議はありますが)、デスクで審査をしている訳で、「具体的な商品の取引の実情」を審査に反映しろというのは、無理があります。そこは、審決取消訴訟でカバーするという方法もあれば、審決取消訴訟では、審査の適法性を判断するのだとすると、そもそも、無理な「具体的な商品の取引の事情」を商品類似で判断するのではなく、「指定役務の一般的、恒常的な取引の実情」で良いというのも、分かるような気はします。

 

氷山印事件、保土ヶ谷化学事件は、小谷武先生の「新商標教室」で、把握しました。 

新商標教室

新商標教室

 

 

氷山印事件は、商標の類否を判断するのは、外観、称呼、観念の3つを全体的に考察すべきという判決で有名です。しかし、先生は、そこではなく、この判決の商品の類否について、特に、指定商品の類否は商品の具体的取引の実情に基づく判断という点を問題にしています。

商標の類似の方は、氷山印などの判断で、仕方ないとしておられるのでしょうか。

 

昭和の終わりに、学生で、弁理士試験の受験生をしていたときに、

  • 商標の類似は、同一又は類似の商品に使用するときに出所混同が生じるかどうか、
  • 商品の類似は、同一又は類似の商標に使用するときに出所混同を生じるかどうか、

として、それらの判断に具体的な取引の実情を加味するとなると、一方が確定するまでは他方が確定せず、その反対もありますので、これはそもそも、循環論になる可能性がある考えだなと思いました。

(※双方を、一般的、抽象的に見るなら、OKですが、そうなると、社会の実態と乖離します。そうなると、不満がマグマのように貯まりますので、欧米流の方向性がうらやましく見えます。)

 

商標の類似を商品と関係なしに、確定するのはありだと思いますが、おそらく、4条の中でも、4条1項11号は、別であり、商品を前提に考えないといけないという反論はありそうです。

 

私見ですが、そもそも、商標(Trademark)という言葉が、2重の意味で使われていることが多く、標章(Mark)を商品(Goods)について使用すると商標(Trademark)となるところかして、難解です。

商標といっても、標章をいうのか、商品を含んだ商標なのか不明に時があります。

商標法は、もう一度、抜本的に作り直した方が良いのかもしれません。