工藤先生の判例解説(5)
引き続き、解説を読んでいます。
著名なポパイの漫画の商標権を取得した者が、著作権者の許可を得てポパイ標章を付して販売している者に対して商標権侵害を主張するのは、公正な競業秩序に違反し、権利濫用となるとした、ポパイ事件を冒頭に挙げておられますが、その後は、侵害事件ではなく、商標登録要件、無効理由としての、4条1項7号に焦点をあてた解説になっています。
4条1項7号の判例は、(知財)高裁を中心としたもののようです。
特許庁の審査実務は他人の商標等の無断出願(剽窃的出願)の取り扱いに苦慮している。出所混同のおそれがあれば、4条1項15号。周知著名のときは、4条1項19号で対応可能だが、周知著名でない剽窃的出願は、7号で処理される。
ただ、剽窃的出願が、常に公序良俗違反とはいえない。出願や権利取得が信義則等に反する場合でも、文理上は無理がある。
●先生の分析では、判例の傾向は変遷しているようです。
(※ここまで、積極的。他人の名称等に便乗して、不正な利益を得るなどの不正な目的をもって、使用するものは、公正な商取引の秩序を乱し、公序良俗を害するおそれがある商標という論理。)
- ハレックス事件
- ハイパーホテル事件
- コンマー(甲)事件
(※知財高裁は、無断出願等、私人間の紛争に対しては、7号適用を明確に否定するに至った。4条1項7号が、商標自体の性質に着眼しているので、商標自体に公序良俗違反のない場合に同号を適用するのは、出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものに限るという考えに。)
- COMEX事件
- Asrock事件
- 日本漢字能力検定協会事件
(※ただし、これらは、個別適用)
●条文としては、4条1項7号違反は、
- 公序良俗違反の商標は、商標登録を受けることができない(4条1項7号)
- 無効審判請求の除斥期間はない(47条)
- 無効になるものは、抗弁事由となる(39条で準用する特許法104条の3)
- 7号違反は後発的無効理由となる(46条1項6号)
●最後に、最近話題の「悪意の出願」に、7号を拡大適用するという検討について、裁判所の支持が必要としています。
コメント
4条1項7号は、審査官や、無効審判などの商標権の有効性を議論するときには、使いたくなる条文ですし、その判断例も多いのだと思いますが、事案ごとの特殊性で判断が変わってきそうですし、あまり積極的に活用すると、予測可能性に影響がでるので、難しい条文だと思います。
職権審査の条件下で、審査官が公序良俗違反を見るには、実際の使用例を見ないという前提であれば、審査はほとんど無理であり、期待してはいけないのだと思います。
商標審査基準の7号の部分もさっぱりした感じであり、商標の構成から判断できるようなものしか例示されていません。
インターネットで、実際の使用例をチェックすることは、最近は、実は相当可能なのですが、その判断は当事者主義的なものですので、当事者に任せて、異議を待つのでも良いように思います。
(あるいは、法改正して、使用チェックを入れるかですが。。。)
最近の知財高裁が、無断出願等、私人間の紛争に対しては、7号適用を明確に否定するに至ったとあるのは、その脈絡で理解できます。
工藤先生の話とはあまり関係ないのですが、最近、「悪意の出願」という言葉を良く聞きます。
模倣品対策が華やかだったころは、「冒認出願」という言葉が多かったように思います。
先生の文章には、「剽窃的出願」とあります。
悪意、冒認、剽窃。言葉が似ているので、こんがらかります。一般人が聞いて理解できるのは、「剽窃的出願」だと思います。
「冒認」というのは、知財関係者以外に通用する言葉ではありません。
「悪意」といっても、法律用語の「善意」「悪意」の「知っているか、知らないのか」を指すのか、あるいは、より一般用語の、「悪い意図をもって」の意味なのか不明です。おそらく一般用語に近いのですが、日本の法律家は?となるはずです。
反対に、ここでいう「悪意」は、英語の”Bad faith”という言葉があり、それを翻訳したのだと思います。
「faith」は、辞書によると、「信頼、信用、(理性・理屈を超えた)信念、確信、信念、信仰、真正の信仰、キリスト教(の信仰)、信条、教旨」という意味ですので、「悪い考え方を持った出願」ということなのでしょうか。
Wikepediaの英語サイトでは、「Bad faith」は、不誠実や詐欺に近い意味と解説しています。
田中英夫先生の英米法辞典には、誠意がないこと、悪意(法的な意味)、害意 の3つがありました。商標の場合は、害意でしょうか?
「悪意」の出願、このまま使うなら、その定義をしっかり持っておく必要がありそうです。