田中 洋 先生の論文を読みました
以前の会社の先輩から、読みなさいと紹介を受け、知財管理の2019年4月号の「知財とブランド-知財部門がブランド戦略において担うべき役割ー」を読みました。中央大学ビジネススクールの田中洋先生の論文です。
パテント誌と違い、知財管理誌はクローズドなのですが、知財部門にはありますので、入手できると思います。
(パテント誌は全件オープンで、読者層を大きく伸ばし、雑誌としても良くなっています。知財管理誌もそうすべきと思いますが、どうなんでしょうか?)
2019年4月号 目次 | 「知財管理」誌 | 機関誌・資料 | 一般社団法人 日本知的財産協会
さて、田中先生の論文だけあり、しっかりと分析がされており、面白かったというのが、感想です。商標協会のブランドマネジメント委員会でもお見掛けしたことがあります。
知財高裁判決を引用する、マーケティングの先生など、あまりいないだろうなと思いました。
■特に、印象に残った点は、2点あります。
●一つは、「ブランド価値」の話です。
統計学用語の難しい話は分かりませんが、ブランド価値は、測定できないものであり、様々な観測変数によって間接的に測定されるもの、という話はうなずけます。
単純に金銭評価をしても、体質改善に役立たないなぁとは、うすうす、思っていました。
●もう一つは、「ブランドの3つの次元」の話です。
先生は、ブランドを、①認知システム、②法的な商標、③社会に共有された記号、の3つの側面で捉えています。
①はマーケティング、②は商標、③は広報の役割と、されている点は、良いなと思いました。
マーケティングの担当者の見ているブランド、商標担当者の見ているブランドは、理解していたのですが、
広報を、社会との関係を構築する本来の意味の広報(Public Relation)と考えると、確かにそうです。
Ries父娘の本を読むと、ブランドは広告や宣伝が作るものではなく、広報が作るものという話が出てきますが、「社会に共有された記号」の管理は、まさに広報的です。
The 22 Immutable Laws of Branding (text only) by A.Ries.L.Ries
- 作者: A.Ries.L.Ries
- 発売日: 2002
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログを見る
■ 知財の機能論ですが、先生は、下記の①~④をするように、提案されていますが、BtoCの会社であつて、マーケティング要員が沢山いる会社では、
知財の機能は、①法的保護機能に限定されており、②ブランドロゴの使い方などの運用機能はブランドマネジメント部門に、③ホワイトスペースやサブカテゴリーを見つける育成機能はマーケティングに、④ライセンス、コ・ブランディングや、技術ブランディングなどの活用機能はマーケティングがメインで、法的側面だけ知財、という感じです。
しかし、BtoCの会社の特許部門でも、知財開発というようなタイトルで、従来の権利取得、ライセンスだけ、という殻をやぶった知財活動が増えているので、その意味では、BtoC企業の商標部門だけが、取り残されているのかもしれません。
今、①と④の半分ぐらいの役割しか果たせていないのに、②や③まで、はたして、できるのだろうか?という気はしますが、日本には、BtoBの会社の会社の方が圧倒的に多く、そこでは、マーケティングや宣伝や広報の担当者は、それほどいないような感じですので、知財担当の活躍の可能性は大いにあります。
権利取得から離れて、田中先生の仰るような、仕事をしたいなら、自社内で、マーケティングや広報に移る方法もあるのですが、いっそ、BtoCの会社の商標担当者は、BtoBの会社に移ることも選択肢に入れてはどうかと思いました。
私の数少ない、ブランドコンサルの経験からみても、BtoBの会社では、知財担当者が、狭い①の範囲を離れて、②~④をするチャンスは、多くあるように思っています。
■最後に、蛇足で、お酒(ビール)の話題ですが、卸はビールメーカーの系列がありましたが、小売店は、キリンビールだけ、アサヒビールだけということはなく、サッポロビールも含めて、売っていました。